不動産を競売で購入したが元の所有者が立ち退かない場合。(最終改訂平成20年5月13日)

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抵当権実行等による競売で、土地、建物を購入したが、当該建物に以前の持ち主の家具などがあり明け渡しができない場合「引渡し命令」の手続をとることになります。

1、貴方が、購入した競売の対象は、不動産であり、家屋内にある家具などの動産は別個独立のものであり含まれていません。したがって。家を競落し競売代金を支払って、家屋所有権を完全に取得したからといって中にある動産の所有権は、依然として元の所有者にありますからこれを勝手に処分することはできません。本来であれば、貴方は、取得して家屋の所有権に基づき建物明け渡し訴訟を起こし新たに判決をもらい強制執行することになります。再度、訴訟が必要なら競売物件など買わなければ良かったと貴方は思われるはずです。

2、そこで、不動産の競売手続きを適正、迅速に遂行するために不動産の任意競売(強制競売も)について簡易な強制執行手続が用意されています。それが、引渡し命令の申立てという強制執行手続きです(民事執行法83条)。引渡し命令を債務名義として、執行官に申立て、従前の所有者などを強制的に立ち退かせることができるのです(当事務所事例集NO771号を参照してください)。引渡し命令は、強制執行手続の例外的なものであり要件が厳格です。以下簡単な流れをご説明します。

3、引渡しの命令の申立て期限は、代金を納付した日から6ヶ月以内であることが必要となり、期間経過後は、原則に戻り通常の明渡しを求める訴訟を提起しなければならなくなってしまうので注意しましょう。

4、裁判所で、競売物件の記録に基づき書面審理した結果、認められると引渡し命令が相手方(占有者など)に送達されます。そして、執行抗告がなければ、1週間で確定し、強制執行ができることになります。

5、次に、執行官に、明渡しの強制執行を申し立てることになります。しかし、その前に、執行係に引渡し命令正本に執行文付与の申立て、相手方に引渡命令正本が送達できたことを証明してもらうために、送達証明申請もする必要があります。これらの申立てがあれば、引渡し命令書に執行文が付与されることとなります。

6、明渡しの強制執行を申し立てる際には、手数料や、必要な費用を予納することも必要となります。また、今回のように、家財道具を不動産から拠出したり、保管する場合には、これらの費用も別途かかります。

7、最後に明渡しの強制執行の手続きについて説明します。この手続き自体は、執行官が行います。執行官は、原則として1ヶ月を経過する日を引渡し期限と定めて、明渡しの催告をすることができます。そして、明渡しの執行は、執行官が債務者の目的物に対する占有を解いて、債権者にその占有を取得させることができるものなので、債権者またはその代理人が、執行の場所に出頭することが必要とされています。また、引渡し期限までの間に、債務者が中にある家具を持ち出さず、引渡し日に債務者が不在で、中にある家具を引き渡せない場合には、執行官は即日または断行の日から1週間未満の日にこれを売却することができるとされています。したがって、執行官が即日に売却の判断をしない場合には、他の場所で家具を保管することになり、この保管に必要な費用も債権者が負担することになります。

8、以上のように、買受けた後も、従前の所有者が占有している又は荷物をどかさない場合には、前述のような法的手続きを講じなくてはなりません。勝手に荷物を売却してしまいますと、所有権侵害ということになり不法行為に基づく損害賠償請求をさせることも考えられますので、一度最寄りの法律事務所で詳細な手順、方法につきましては、ご相談しましょう。

≪参考条文≫
以下の条文は、強制執行手続ですが、任意競売にも準用されています(民事執行法188条)。
(引渡命令)
第八十三条
 執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
3 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第一項の規定による決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。ただし、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、又は既にその者を審尋しているときは、この限りでない。
4 第一項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない
(不動産の引渡し等の強制執行)
第百六十八条
 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
2 執行官は、前項の強制執行をするため同項の不動産等の占有者を特定する必要があるときは、当該不動産等に在る者に対し、当該不動産等又はこれに近接する場所において、質問をし、又は文書の提示を求めることができる。
3 第一項の強制執行は、債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り、することができる。
4 執行官は、第一項の強制執行をするに際し、債務者の占有する不動産等に立ち入り、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
5 執行官は、第一項の強制執行においては、その目的物でない動産を取り除いて、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならない。この場合において、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。
6 執行官は、前項の動産のうちに同項の規定による引渡し又は売却をしなかつたものがあるときは、これを保管しなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
7 前項の規定による保管の費用は、執行費用とする。
8 第五項(第六項後段において準用する場合を含む。)の規定により動産を売却したときは、執行官は、その売得金から売却及び保管に要した費用を控除し、その残余を供託しなければならない。
9 第五十七条第五項の規定は、第一項の強制執行について準用する。
(明渡しの催告)
第百六十八条の二
 執行官は、不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行の申立てがあつた場合において、当該強制執行を開始することができるときは、次項に規定する引渡し期限を定めて、明渡しの催告(不動産等の引渡し又は明渡しの催告をいう。以下この条において同じ。)をすることができる。ただし、債務者が当該不動産等を占有していないときは、この限りでない。
2 引渡し期限(明渡しの催告に基づき第六項の規定による強制執行をすることができる期限をいう。以下この条において同じ。)は、明渡しの催告があつた日から一月を経過する日とする。ただし、執行官は、執行裁判所の許可を得て、当該日以後の日を引渡し期限とすることができる。
3 執行官は、明渡しの催告をしたときは、その旨、引渡し期限及び第五項の規定により債務者が不動産等の占有を移転することを禁止されている旨を、当該不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により、公示しなければならない。
4 執行官は、引渡し期限が経過するまでの間においては、執行裁判所の許可を得て、引渡し期限を延長することができる。この場合においては、執行官は、引渡し期限の変更があつた旨及び変更後の引渡し期限を、当該不動産等の所在する場所に公示書その他の標識を掲示する方法により、公示しなければならない。
5 明渡しの催告があつたときは、債務者は、不動産等の占有を移転してはならない。ただし、債権者に対して不動産等の引渡し又は明渡しをする場合は、この限りでない。
6 明渡しの催告後に不動産等の占有の移転があつたときは、引渡し期限が経過するまでの間においては、占有者(第一項の不動産等を占有する者であつて債務者以外のものをいう。以下この条において同じ。)に対して、第一項の申立てに基づく強制執行をすることができる。この場合において、第四十二条及び前条の規定の適用については、当該占有者を債務者とみなす。
7 明渡しの催告後に不動産等の占有の移転があつたときは、占有者は、明渡しの催告があつたことを知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由として、債権者に対し、強制執行の不許を求める訴えを提起することができる。この場合においては、第三十六条、第三十七条及び第三十八条第三項の規定を準用する。
8 明渡しの催告後に不動産等を占有した占有者は、明渡しの催告があつたことを知つて占有したものと推定する。
9 第六項の規定により占有者に対して強制執行がされたときは、当該占有者は、執行異議の申立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により目的物を占有していること、又は明渡しの催告があつたことを知らず、かつ、債務者の占有の承継人でないことを理由とすることができる。
10 明渡しの催告に要した費用は、執行費用とする。

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