裁量保釈について(最終更新平成26年5月8日)

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ご家族・ご友人が逮捕・起訴されたが、弁護人に依頼した弁護士から「保釈できない」と言われてしまう場合があります。次のような条件があると、起訴後であっても、保釈が難しいと考えることは間違いではありません。

1=短期1年以上の懲役禁錮にあたる罪名で起訴された場合(刑事訴訟法89条1号、権利保釈できない場合)
2=第一回公判期日前であること(起訴後40日程度かかる場合があります)
3=証拠開示なされる前であること
4=被害者との示談が成立していないこと
5=共犯者がいること
6=当初否認または一部否認していたこと

権利保釈ができない場合は、刑事訴訟法90条の裁量保釈となり、検察官の「不相当意見書」が出てしまいますと、裁判所としても、保釈決定をやりにくいことになります。保釈請求があると、裁判所から検察庁に対して、この保釈請求について相当であるかどうか、意見を求める連絡を行います。これを求意見と言います。検察官の不相当意見書は、刑事訴訟法89条4号、5号、6号を根拠として、保釈が不相当であるということを主張します。保釈請求が却下された場合は、即座に、この不相当意見書の謄写請求を行い、準抗告手続きや、次回の保釈請求手続きにおいて、項目ごとに反論していく必要があります。

刑事訴訟法89条
保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一号 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二号 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三号 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六号 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

四号は、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」という条件であり、保釈された場合、共犯者などと通謀して虚偽供述を作出することにより、検察官は、罪証を隠滅するおそれが高いことを主張します。

これについては、罪証隠滅の客観的な可能性が無いこと、罪証隠滅の主観的な可能性が無いことを主張します。

罪証隠滅の客観的な可能性が無いことについては、客観的事情から、罪証隠滅が不可能であることを主張します。
(1)本件で想定しうる物証及び被害者その他の者の供述調書等は、既に家宅捜索等によって押収され捜査機関によって厳重に管理されており、被告人がこれらを隠滅することは物理的に不可能である。
(2)被告人が公訴事実を何度も全て認め、複数回、調書に記録されていること。被告人が被害者等の住所や連絡先等の情報を一切把握しておらず、被害者らに対する威迫、懇願等の働きかけは物理的に不可能である。
(3)弁護人となっている弁護士が、「被告人が公訴事実を認めていること」、「証拠隠滅をさせないこと」、「弁護方針は、公訴事実を全て認めた上で被害弁償や情状酌量があることによる酌量減軽を求めること」、「指定住所居所において法規及び遵守事項を守って生活させること」、「裁判所、検察庁、警察署からの出頭要請に応じさせること」、「被害者その他の事件関係者には、弁護人からの連絡を除き、手段を問わず、今後一切の連絡接触をしないこと」、などを保証する。この「保証」とは、民法上の債務の保証とは異なり、弁護人の立場でこのように行動するという約束の申入れ、というような意味です。

罪証隠滅の主観的な可能性が無いことについては、主観的事情から、罪証隠滅が不可能であることを主張します。
(1)被告人が、公訴事実を全て認め、検察官請求証拠にも全て同意し、真摯な反省の態度を示していること。
(2)被告人が、当初否認していた場合は、どのように考え、どのように感じて、否認していたのか、また、これが、どのように考え、どのように感じて、認めるに至ったのか説明すること。
(3)反省の結果、被害者に対する態度として、どのような被害弁償の提案を行っているのか説明すること。被害者に対して、どのように考えて、どのような謝罪文を今までに交付してきたのか。弁護士の、依頼者からの示談金預かり書も提出します。示談交渉経過の詳細な報告・説明が必要です。
(4)反省の結果、仕事の関係でどのような行為をしたか説明する。例えば、会社に迷惑をかけたことを反省し自主退職しているのであれば、退職願の写しを提出する。

五号は、「被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある」という条件であり、検察官は、過去の経緯などから、保釈された被告人が審判に影響をあたえるような行為をするおそれがある旨を主張します。

これについては、被告人が、「犯罪傾向にあるとはいえないこと」、「今後の捜査の必要性はなく、身柄を釈放しても捜査への影響がないこと」、などを主張して、審判への影響がないことを主張していきます。

犯罪傾向にあるとはいえないことについては、つぎのような事情を説明します。
(1)過去の類似事案の前科・前歴が一切ないこと。
(2)他の全ての刑罰法規も含めて、前科・前歴が一切ないこと。
(3)被告人の就学時の学業に対する態度、学業成績から言って、犯罪傾向のある若者ではないこと。
(4)被告人の就業後の業務に対する態度、勤務成績から言って、犯罪傾向のある若者ではないこと。
(5)性犯罪などの傾向犯については、依存症などの精神疾患が関与している場合があるので、保釈された場合は、必要なカウンセリングや治療を開始することを誓約していること。

今後の捜査の必要性はなく、身柄を釈放しても捜査への影響がないことについては、つぎのような事情を説明します。
(1)被告人が犯罪事実を全て認め、争っていないこと。
(2)犯罪事実の立証に必要な証拠収集整理は全て完了しており、これ以上の捜査の必要性がないこと。
(3)仮に何らかの補充的捜査が行われるとしても、現時点の証拠収集状況に鑑みて、保釈を認めたところで今後の捜査の進行には影響を及ぼさないことが明らかであること。

六号は、「被告人の住居が分からない」ということで、いわゆる住所不定であるため、逃亡のおそれがあって、公判期日の呼び出しにも応じない可能性があり、刑事裁判に支障がある可能性があるということです。

これについては、逃亡のおそれがないことについて、次のような事情を説明します。
(1)被告人自身が、誰と何処で生活するのか、誰の指導監督に服するのか、誓約していること。
(2)被告人自身が、裁判所、検察庁、警察署などからの出頭要請に対しては必ず直ちに応じる旨、誓約していること。
(3)被告人自身が、直ちに医療機関などへの通院を開始することを、誓約していること。
(4)身元引受人による監督が期待できること。身元引受人と被告人との関係がどのようなものであるか、説明する。
(5)家族の協力がどうなっているか。被告人の母親の態度、父親の態度、兄弟の態度、妻の態度を、説明する。
(6)被告人が養育している子女との関係。被告人が子女の養育に対してどのような考え方をもっているか、どのような態度で臨むのか。
(7)被告人にとって、逃亡による不利益が大きいこと。被害者との間の示談交渉経過などから、執行猶予付き判決を得る可能性があり、これに向けて、被告人本人と、家族と、弁護人が一丸となって協力しているところであるから、被告人がそのような可能性を全て放棄して逃亡するような愚行をすることは考えられないこと。

裁量保釈の規定である、刑事訴訟法90条はつぎのような条文です。

第90条  裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

「適当とみとめるときは」という規定になっています。少し抽象的ですが、実務上は、保釈請求書において、つぎのような事情を説明します。

保釈の許容性。保釈しても不都合が生じないことを説明します。おおむね、上記の刑事訴訟法89条4号〜6号の説明と同様になります。家族親族の協力などにより、保釈金相当額の弁護人に対する預託(準備)も完了していることも説明します。

保釈の必要性。保釈しなければならない理由を説明します。
(1)家族関係の必要性。育児や介護などで、家族関係の相互扶助をするために、被告人の身柄拘束が支障となっていることを説明します。例えば、被告人の父母が危篤状態にあるような場合は、親子の面会が必要である旨を説明します。
(2)長期にわたる身柄拘束が続いていること。逮捕、勾留から、起訴に至るまで、1ヶ月近く身柄拘束が続いており、若年であり可塑性を有する被告人の身柄拘束は必要最小限度に留めるべきである。憲法上の人身の自由や、刑事訴訟法が定める適正公平な刑事裁判の実現のためにも、身柄拘束は必要最小限度に抑えるべきである。
(3)被告人の更生のために早期釈放を認める必要が高いこと。勤務先業務継続の必要や、退職の場合は新たな勤務先を探す必要があること、また、求職に備えて新たな職業訓練を受ける必要があることなどから、早期釈放が必要であることを説明します。
(4)被告人の弁護活動、防御に著しい支障が生じること。刑事記録を詳細に検討したうえでの打ち合わせや、被告人質問等の公判での立証活動、弁護活動に向けた準備は、被告人の防御等の上で不可欠な活動であることを説明します。


これらの主張を保釈請求書と添付書類にまとめて裁判所に提出することも大切なことですが、担当検事との面談を重ねて、被告人の公訴事実に関する認否や、弁護人の弁護方針について良く説明し、理解が得られるように努力することも大事なことです。被告人と、公訴提起した検察官は、刑事訴訟法の公判廷における主張立証の構造上は対立している形式となっていますが、真実を探求し、被告人を更生させ、社会の治安を良くするという意味においては、なんら対立するものではありません。当然、被告人の更生(謝罪・反省)の過程で、被害者への被害弁償も行われることになります。そのことについて、弁護人と検察官が協議することは有益なことです。検察官が保釈について了解できない場合は、裁判所の保釈許可決定に対して、検察側からの準抗告の申し立てがなされてしまう場合もあるのです。

検察官が心配しているのは、捜査段階で罪を認めていても、自白の調書の任意性を否定してくることです。すなわち無罪の主張です。その理由が不相当意見書を謄写することにより判明した場合は、次の対策が必要です。

@被告人本人に公訴事実を認める書面を作成してもらい署名もしてもらうこと。A弁護人がその@の内容に確認したという証明書を付けること。B検察官取り調べの自白調書について任意性があることを被告人が認め、弁護人もこれを証明する文書を作成すること。C以上の書面を一式事前に検察官に送付し、送付の証明書を添付すること。D詳細な自白を前提とした示談の経過書を添付すること。E家族の自白を前提とした謝罪文、上申書を添付すること。

以上の対策を講ずれば、例えば、強姦、強姦致傷、強盗、強盗致傷等の重罪であり且、第一回公判前、証拠開示前、示談成立前、捜査段階において否認事件であったが自白事件に代わった場合、共犯者がいても裁量保釈の可能性は残されています。

裁判官との面接、事情説明、交渉は言うまでもなく必要です。


依頼している弁護人から「保釈は無理」と言われてしまった場合でも、あきらめず、保釈の必要性を説明して、準抗告や再度の保釈請求の手続きを検討してもらうと良いでしょう。

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