新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.81、2005/1/25 10:00 https://www.shinginza.com/tekijyo.htm

[債務整理]
質問:最近,転職したことにより収入が減り,今組んでいる住宅ローンが支払えなくなってしまいました。今後,債権者からどのような法的手段がなされることとなりますか。また,自分で住宅を失わないようにする方法はありますか。

回答:
以下,説明を分かりやすくするために,通常なされる保証会社等による抵当権設定ではなく,抵当権者と債権者が一致することを前提としてご説明します。住宅ローンのような抵当権付の借入が返済できなった場合,まずは,抵当権者から支払いの督促を受けるようになり,それでも支払えない場合には,抵当権者から, @競売申立,A担保不動産収益執行,B物上代位による賃料差押え,C破産申立などの法的手段がなされることが考えられます。

@競売申立は,裁判所の強制競売で不動産を売却し,その売却額から債権者が債権を回収するたもの手段です。申立から競落まで,約1年くらいかかります。A 担保不動産収益執行は,平成16年4月に新たに施行された制度で,対象となる不動産が,本件のように自宅用ではなく,他人に賃貸にしているような場合,債権者である抵当権者が,優先的に賃料を取得し,自己の債権の弁済に充てる制度です。B物上代位による賃料差押えは,従来からあった方法で,抵当権者が優先的に賃料を差し押さえる制度です。AもBも,抵当権者が不動産の賃料収入から債権を回収するという点では類似の方法ですが,Aは,特に,不動産が大規模のもので,全ての賃借人を把握することが困難な場合などに有用と考えられています。Cの破産申立は,非常事態ですが,申立後,破産管財人が裁判所より任命され,管財人により,原則として全ての財産が売却され,売却代金が公平に配当されます。かかる破産手続において,本件のような抵当権付不動産は,別除権付不動産として売却され,その売却代金が,優先的に担保権者の債権の回収に充てられます。

これらのような法的手段を採られてしまうと,不動産の所有者としては,現状のまま,不動産を所有し続けることは,事実上不可能と言えます。これに対し,不動産を所持しつつ,担保権者を始めとする他の債権者への債務を整理し現実的に支払い可能な返済計画にリスケジュールできる方法として@住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生を申し立てる方法があります。また,不動産を手放して処理する方法として,A任意売却とB抵当権消滅請求があります。

@住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立は,収入が一定しているなど様々な条件がそろうことが必要ですが,かかる手続による再生計画(債権者への支払い方法)の認可が裁判所から下りると,住宅ローンをはじめとする債務返済のリスケジュールが認められ,住宅である不動産を失わない形で,無理のない返済をしていくことが可能となります。A任意売却は,競売手続によらず,抵当権者の同意を得て抵当権を抹消し,不動産を一般市場で売却する方法です。債務者が不動産の明け渡しに協力することで,場合によって意は,競売による売却よりも,3〜4割高額で売却することができることもあります。B抵当権消滅請求は,従来の「滌除」という制度に代わり,平成16年4月に新たに施行された制度で,不動産を買受人に売却後,その買受人が抵当権者に対して,不動産の評価相当額の支払いを提示しつつ,抵当権の消滅を請求する制度です。抵当権者がかかる請求を承諾し,その代金を買受人が支払うか供託すれば,抵当権は消滅します。一方,承諾したくない抵当権者の場合が,消滅請求から2か月以内に競売申立をした場合には,通常の競売手続に移行することになります。

家族とともに住む住宅を失うことは,極めて大きな損失ですので,債務の返済に滞ってしまった場合には,弁護士等に相談して,@住宅資金貸付債権に関する特則付の個人再生手続申立を検討して,なんとか住宅を手放さないで債務の整理ができないかを検討するといいでしょう。そして,かかる手続で,裁判所の認可を得るのが困難であるという場合には,A任意売却や,B抵当権消滅請求の活用を検討して,手放すにしても少しでも高額で住宅が売却できるよう検討するとよろしいかと思われます。

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