不当な強制執行を申し立てられました

民事|強制執行|民事執行法|執行抗告|執行異議|請求異議の訴え|第三者異議の訴え|執行停止文書

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

不当な強制執行を申し立てられました。法的な対応策を教えてください。

回答:

1 民事執行法に基づく対応策を下記ご案内致します。

2 強制執行に関する関連事例集参照。

解説:

1、民事執行法が定める救済手段、執行停止文書

民事執行法で、執行抗告、執行異議、請求異議の訴え、第三者異議の訴え、などが救済手段として定められています。また、民事執行法39条1項各号で執行停止文書が法定されています。以下、執行停止文書を列挙致します。いずれの書類も用意することが簡単なものではありません。

※執行停止文書一覧(民事執行法39条1項各号)

1号 債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本

2号 債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本

3号 第二十二条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失つたことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書

4号 強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法第二十一条第四項の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第二十条第七項の調書の正本

5号 強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書

6号 強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本

7号 強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本

8号 債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書

2、執行抗告、執行異議

執行抗告と執行異議は、民事執行の手続きに関する裁判や決定に関して、判決がないのに偽造書類で間違って強制執行されたなど、執行手続きの過程において手続上の事実誤認や法律違反がある場合に、執行裁判所に申し立てるものです。執行抗告は、決定等の告知を受けてから1週間以内に、法律に特別の定めがある場合に限って申し立てることができます。申立をしても、強制執行は停止しないのが原則ですので、手続を止めたい場合は、執行停止等の裁判を求める申し立てを行う必要があります。

抵当権に基づく不動産競売に関して執行異議を申し立てる場合は、担保権の消滅や、被担保債権の消滅など、実体上の異議事由を主張することができます(民事執行法182条)。開始決定正本を受け取ったら、早急に申し立てをする必要があります。

3、請求異議訴訟

請求異議の訴えは、適法に成立している債務名義(確定判決、裁判上の和解調書、調停調書、公正証書など)の権利の内容について、支払い済みなのに強制執行されたなど、異議がある場合に申立をするものです。この場合も、強制執行の手続きは停止しないのが原則です。停止させるためには仮の処分としての強制執行停止決定の申立が必要です。なお、確定判決が債務名義である場合は、判決確定後の事情しか主張できませんが、確定判決以外の債務名義の場合は、成立以前の事情や成立自体の無効をも主張することができるとされています。

4、第三者異議訴訟

第三者異議の訴えは、債権者(原告)と債務者(被告)以外の第三者が、自分の財産を守るために申し立てる手続きです。自分の財産が間違って債務者の財産として強制執行されそうな場合に、申立を行います。この場合も、手続を停止させるためには、別の申立が必要です。

5、まとめ

強制執行を止めるためには、強制執行の端緒となった債務名義や不動産担保権の成立過程から、債務名義(担保権)成立後の事情まで、詳細に事情を伺う必要があります。その上で、実体法と執行法の法解釈に基づく法的判断を下し、対処方法の方針を定める必要があります。一般論となりますが、裁判所の単なるミスなどにより強制執行手続きが開始される可能性は極めて低いものと言えます。債権者が弁済を受けたのに重ねて強制執行の申立をしたなどの格別の事情が必要となるでしょう。そして、それらの事情を証拠により立証することが必要となるのです。お困りであれば一度お近くの弁護士事務所に御相談なさって下さい。

以上

関連事例集

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参照条文

≪民事執行法≫

(執行抗告)

第十条 民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。

2 執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。

3 抗告状に執行抗告の理由の記載がないときは、抗告人は、抗告状を提出した日から一週間以内に、執行抗告の理由書を原裁判所に提出しなければならない。

4 執行抗告の理由は、最高裁判所規則で定めるところにより記載しなければならない。

5 次の各号に該当するときは、原裁判所は、執行抗告を却下しなければならない。

一 抗告人が第三項の規定による執行抗告の理由書の提出をしなかつたとき。

二 執行抗告の理由の記載が明らかに前項の規定に違反しているとき。

三 執行抗告が不適法であつてその不備を補正することができないことが明らかであるとき。

四 執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるとき。

6 抗告裁判所は、執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで原裁判の執行の停止若しくは民事執行の手続の全部若しくは一部の停止を命じ、又は担保を立てさせてこれらの続行を命ずることができる。事件の記録が原裁判所に存する間は、原裁判所も、これらの処分を命ずることができる。

7 抗告裁判所は、抗告状又は執行抗告の理由書に記載された理由に限り、調査する。ただし、原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反又は事実の誤認の有無については、職権で調査することができる。

8 第五項の規定による決定に対しては、執行抗告をすることができる。

9 第六項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。

10 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第三百四十九条の規定は、執行抗告をすることができる裁判が確定した場合について準用する。

(執行異議)

第十一条 執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。執行官の執行処分及びその遅怠に対しても、同様とする。

2 前条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による申立てがあつた場合について準用する。

(請求異議の訴え)

第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。

2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

(第三者異議の訴え)

第三十八条 強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。

2 前項に規定する第三者は、同項の訴えに併合して、債務者に対する強制執行の目的物についての訴えを提起することができる。

3 第一項の訴えは、執行裁判所が管轄する。

4 前二条の規定は、第一項の訴えに係る執行停止の裁判について準用する。

(強制執行の停止)

第三十九条 強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。

一 債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本

二 債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本

三 第二十二条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失つたことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書

四 強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第二十一条第四項の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第二十条第七項の調書の正本

五 強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書

六 強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本

七 強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本

八 債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書

2 前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、四週間に限るものとする。

3 第一項第八号に掲げる文書のうち弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、二回に限り、かつ、通じて六月を超えることができない。