新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.172、2004/6/17 14:00 https://www.shinginza.com/sakimono.htm
[民事・消費者]
質問:先月,商品先物取引を行う会社から,「イラク戦争の影響で,近い将来原油価格が高騰する。今取引すれば絶対に儲かります。」と言われ,原油の先物取引を勧められました。先物取引のことはよく分からなかったのですが,「絶対に儲かる」という話だったので,勧められるまま100万円を投資して原油の先物取引を始めました。会社の担当者から「全て私に任せて下さい。」と言われたので,私からは注文を出さずに会社に任せていました。ところが,今日突然会社から電話がかかってきて,「原油価格が暴落しました。明日までに100万円入金して下さい。」と言われました。
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回答:
1、商品先物取引とは,一般的には将来の一定の時期に商品と代金を交換することを約束する売買取引であって,その時期までに商品の転売や買い戻しをしたときには差金の授受によって決済することのできる取引のことを指します。商品先物市場では,商品の代金全額ではなく,代金の一部に相当する金銭(証拠金)を用意すれば取引することができるので,少ない資金で大きな取引をすることができます。実際に取引している金額は大きいので,成功したときの利益が大きいとともに,失敗したときの損失も巨額になる,リスクの高い取引です。また,商品先物取引には,商品が値上がりすると利益が出る場合(買玉)だけでなく,商品が値下がりすると利益が出る場合(売玉)もあり,取引が非常に複雑です。
2、そこで,商品先物取引を行う会社は,取引を勧誘する際,商品先物取引の内容や危険性について,消費者に誤解を生じさせないようにきちんと説明する義務を負います(受託等業務に関する規則5条4号)。また,消費者に対して,「絶対に値上がりします」といった断定的な判断を提供して勧誘することは禁止されています(商品取引所法136条の18)。また,商品先物取引は,本来消費者が自分で様々な状況を判断し,自分の責任で行うものです。会社は消費者が出した注文を取り次ぐに過ぎません。このことから,商品先物取引について会社が消費者から一任を受けて,消費者に確認をせずに勝手に取引をすることも禁止されています(商品取引所法施行規則46条3号,受託契約準則24条)。さらに,消費者は商品先物取引をやめようと思えば,会社に連絡していつでも取引を終了することができます(手仕舞い)。会社が消費者の要求を無視して独自に取引を続けることはできません(商品取引所法施行規則46条10号)。
3、このように,商品先物取引についていろいろな規制があります。しかし,会社は消費者が出した注文を市場で取り次ぐことで得る手数料を主な収入源としているため,できるだけ多くの消費者に,できるだけ多くの取引をさせようとする傾向があります。そこで,商品先物取引の仕組みやリスクを理解していない消費者は,一刻も早く取引を終了することが大事です。ところが,消費者が手仕舞いを要求して取引を終了しようとしているのに,いろいろと理由をつけて手仕舞いを行わない悪質な会社もあります。このように,なかなか手仕舞いが行われない場合,弁護士に交渉を依頼するのも一つの方法です。
4、手仕舞いしたところ損失が生じた場合,本来であればその損失は取引をした消費者が負担するべきものです。しかしながら,会社が前記2で述べた義務や禁止規定に違反した活動をした場合,これは消費者が投資に失敗したというよりも,会社が消費者のお金を食い物にして自己の利益を確保し,損失だけを消費者に押しつけようとするものです。このような会社の態度を認めるわけにはいきません。そこで,問題の事例のように,会社が前記2で述べた義務や禁止規定に違反している場合には,会社に対して不法行為を理由に証拠金相当額の金銭の支払いを求めることが考えられます。但し、あなたの過失が認定されると,過失相殺により賠償額が減少されることもあります。この請求については弁護士に依頼するのがよいでしょう。弁護士は最初は会社と交渉して,交渉が決裂した場合には裁判によって,証拠金相当額の金銭の支払いを求めていきます。