新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.173、2004/6/17 14:08 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

[民事・執行]
質問:短期賃貸借制度が廃止され、抵当権の実行がやりやすくなったと聞いたのですが、どのようなことなのか分かりません。教えていただけますでしょうか。

回答:
1、短期賃貸借制度とは,ある不動産について民法602条に定められた期間よりも短い期間の賃借権(短期賃借権)を持っている人が,その不動産について短期賃借権より先に登記をしていた抵当権を持っている人よりも優先される制度です。この制度によると,抵当権の実行として競売された不動産を買い受けた人は,たとえ自分がその不動産を使おうと思っても,原則として短期賃借権を持っている賃借人を強制的に排除することはできません。なぜなら,この場合の買受人は法的には抵当権を持っている人と同様に扱われる結果,短期賃借権を持っている賃借人の方が買受人よりも優先されるからです。このため,抵当権を実行しようとしても,短期賃借権がついている不動産はなかなか売れず,事実上抵当権の実行が困難となっていました。
2、短期賃貸借制度は,本来正当な賃借人を保護することを目的としていました。しかし,特にバブル景気が崩壊した後,短期賃貸借制度は抵当権の実行を妨害して,立ち退きと引き換えに金銭を要求するなどして不正な利益を得ようとするいわゆる占有屋によって悪用されました。この結果,最近では短期賃貸借制度の利点よりも弊害の方が大きくなっていました。そこで,平成16年4月1日から適用されている民法では短期賃貸借制度が廃止されました。この結果,ある不動産について抵当権を持っている人とその不動産を賃借している人との間の優劣は時期の先後によって決められることになりました。例えば,住宅ローンについて既に抵当権が設定されている建物を賃借した人は,抵当権を持っている金融機関に劣後します(抵当権の方が先に存在しているため)。この結果,金融機関の抵当権が実行され,当該建物を競落した買受人は賃借人よりも強い地位にあり(買受人は法的には抵当権を持っている金融機関と同じ地位にある),賃借人を排除して自分がその建物に住むことができます。このように,短期賃貸借制度が廃止されたことにより不動産の買受人が賃借人を排除しやすくなりましたから,競売されている不動産を買おうと考える人も増えてきます。この結果,従前よりも抵当権の実行がやりやすくなっているのです。
3、しかし,短期賃貸借制度を廃止しただけでは,不動産の賃借人にとって不利益が大きすぎます。なぜなら,自分はきちんと賃料を支払ってきたのに,抵当権の実行によりある日突然不動産から追い出される場合もあり得るからです。そこで,民法は賃借人の利益にも配慮して,建物賃借人については買受人が代金を納付したときから6か月間建物の明け渡しが猶予される,という規定をおきました(民法395条1項)。建物賃借人はこの6か月の間に別の建物を見つけて引っ越すことになります。このほかにも抵当権を持っている人全員の同意により賃借人の地位を優先させる制度があります(民法387条)。さらに,経過措置として,今回の民法改正前から短期賃借権を持っていた賃借人は,民法改正後も契約期間終了まではそのまま保護されます。

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