新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース このガイドラインによれば、性同一性障害者が自らの心理的な性別の変更を希望するケースはほとんど無く、本人が希望しない心理的な性別の変更を行う治療は、非倫理的かつ非現実的であり、そもそも、そのような治療は治療として成立しないとされています。ガイドラインによると、性器に関する手術(性別適合手術)は、原則的に、治療の第1段階としての精神的サポートや第2段階としてのホルモン治療などを行っても、依然として身体的性別に関する強い不快感や嫌悪感が持続し、社会生活上も不都合を感じており、手術を強く望んでいる場合に、一定の要件を充たしていることを条件とした上で、治療の最終的な段階として行うものとされています。性別適合手術は、上記ガイドラインが取りまとめられて以来、同ガイドラインに基づいて、平成10年10月から埼玉医科大学で行われているほか、岡山大学医学部でも行われているところであり、同ガイドラインに基づく性別適合手術については、正当な医療行為として認知されるようになってきています。 「性同一性障害者の取扱いの特例に関する法律」
No.219、2005/1/19 10:17
[家事]
質問:性同一性障害者で悩んでいるのですが、『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』とは、どのような法律でしょうか。
↓
回答:
1、性同一性障害とは
性同一性障害とは、生物学的には男性であるにもかかわらず性の自己意識は女性であったり、逆に、生物学的には女性であるにもかかわらず性に自己意識は男性であるといった、生物学的な性と性の自己意識が一致しない状態のことを言います。性同一性障害者は、このような生物学的な性別と心理的な性別との不一致によって、苦痛や職業上の差別・困難などの社会的機能障害などに悩んでいる状況にあります。わが国においては、日本精神神経学会が「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」をまとめ、性同一性障害を医療の対象として位置づけているところです。これまで、性同一性障害に悩む人の中には、戸籍の訂正(戸籍法113条)の手続きにより、戸籍の続柄(長男・長女など)の訂正を求める人もいたようですが、そのほとんどが不許可とされていたようです。
2、性同一性障害者性別取扱特例法について
性同一性障害については、わが国では、前記ガイドラインに基づき診断と治療が行われ、性別適合手術も医学的かつ法的に正当な治療行為として認知されるようになってきているほか、性同一性障害を理由とする名の変更も家庭裁判所により許可されてる例が増えてきました。これに対して、戸籍の訂正手続きによる戸籍の続柄の記載の変更はほとんどが不許可となってきていました。そして、そのようなこともあって、性同一性障害者は、依然として社会生活上さまざまな問題を抱えている状況にあり、その治療の効果を高め、社会的な不利益を解消するためにも、立法による対応を求める議論が高まってきていました。このような性同一障害者が置かれている状況を踏まえ、国会においても、性同一性障害者において、法令上の性別の取り扱いの特例を認めることにより戸籍の性別記載の変更などを可能とするための立法措置を講じようとの動きが高まり、法律が制定されるにいたったのです。平成15年に制定された「性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律」は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取り扱いの変更を認める特例について定めるものです。すなわち、現行では、人の法的な性別は基本的に生物学的な性別によって決められていますが、新しい法律では、その例外として、性同一性障害者であって一定の要件を充たす人については、家庭裁判所の審判により、その性別につき心理的な性別である他の性別に変わったものとみなすこととするものです。なお、この法律が妥当する範囲は、あくまでも法令の適用との関係にとどまるものであり、また、その生物学的な性別まで変更するものではありません。
3、法律の適用
法律によると、性同一性障害とは、@生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、A心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、B自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、Cそのことについてその診断を行うために必要な知識および経験を有する2人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致している者、をいいます(第2条)。ここでのポイントは、2人以上の医師の診断ということになるでしょう。この定義に当てはまり、第3条の要件、すなわち、@二十歳以上であること、A現に婚姻をしていないこと、B現に子がいないこと、C生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、Dその身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること、を充たしている場合、請求により、家庭裁判所は性別の取扱いの変更の審判をすることができます。その際には、性同一性障害者に係る診断の結果並びに治療の経過及び結果その他厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出する必要があります。
4、審判の効果
上記の審判を受けた人は、第4条第1項の規定により、民法をはじめ法令の適用については、他の性別に変わったものとみなされることになります。これによって、たとえば、変更後の性別で婚姻や養子縁組をすることも可能となります。また、戸籍の続柄の記載も変更されることになります。
5、性同一性障害の診断と治療
性同一性障害の診断については、日本精神神経学会の特別委員会がまとめた「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」によると、性同一性障害の診断は、次のような手順に従って行うこととされています。まず、詳細な養育歴、生活史、性行動歴について聴取するとともに、自らの性別に対する不快感、嫌悪感などの性別違和の実態を明らかにし、真理的な性別を決定します。次に、染色体やホルモンの検査、内性器、外性器の診察・検査などにより、身体的性別を判定します。さらに、精神障害や文化的社会的理由による性役割の忌避でないことを確認します。そして、これらの点を総合して、身体的な性別と心理的な性別とが一致しないことが明らかであれば、性同一性障害と診断されるものです。なお、この診断は、2人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで確定することとされています。治療については、前述のガイドラインに基づき、本人の意思を尊重しつつ、原則的に次のような手順を踏んだ治療が行われているようです。第1段階 精神的サポート 第2段階 ホルモン治療(男性への女性ホルモンの投与、女性への男性ホルモンの投与)乳房切除術 第3段階 性器に関する手術
(趣旨)第1条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。
(定義)第2条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的および社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を行うために必要な知識および経験を有する2人以上の意思の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
(性別の取扱いの変更の審判)第3条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、そのものの請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 二十歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の昨日を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する概観を備えていること。
2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。
(性別の取扱いの変更の審判を受けたものに関する法令上の取扱い)第4条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。
2 前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。
(家事審判法の適用)第5条 性別の取扱いの変更については、家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の適用については、同法第九条第一項甲類に掲げる事項とみなす。