新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース ≪条文 民法≫
No.230、2005/3/1 13:57 http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/index.html
[民事・契約]
質問:この間、財布を盗難されました。財布の中には、免許証、クレジットカード、キャッシュカードが入っていました。クレジットカード、キャッシュカードについては、すぐに盗難されたことを届けて取引をとめましたが、すでに悪用されていた場合、私は責任を負いますか?また、犯人が運転免許証を使って、サラ金からお金を借りたような場合に、私が支払わなくてはいけないのですか。
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回答:
1、本人でない者が、無権限で行った法律行為については、本人に法的効果が発生しないというのが、民法の大原則になります。しかし、クレジットカード、キャッシュカードについては、すでに信販会社、銀行との間に基本的契約が成立しており、その約款の中に真正な暗証番号が使われた場合には業者は免責される等の条項が入っている場合がほとんどであり、これによって信販会社や銀行の責任追及ができないケースが多いようです。現状では,クレジットカードの場合は保険によって損害が填補されることが多いため、カードを盗難された本人が責任追及されることはさほど多くないようですが,銀行のキャッシュカードで預金を引き下ろされたような場合、銀行は簡単には責任を認めていません。カードを盗難された人は犯人に対して不法行為による損害賠償責任を追及するしかなく、現実には回収することは困難といわざるを得ません。
2、一方で犯人が運転免許証を使って本人に成りすまし、サラ金からお金を借りてきたような場合には、基本契約すら存在しませんから、原則通り,本人が借金を払う必要はないといえるでしょう。この点,民法上例外として表見代理又はその類推適用と言う形で、@虚偽の外観がA本人の責任(故意・過失)で作られた場合にBその虚偽の外観を過失なく信じた第三者は保護される場合があり,その意味で今回のケースでも本人が支払い義務を負う可能性が全くないとは言い切れません。しかし,単に盗まれたと言うだけでは,上記@Aでいう虚偽の外観に対する本人の責任は強度とはいえず,業者の請求が認められる可能性は低いと考えます。
3、以上の通りですが,より安全を期するなら,警察への盗難届・紛失届に加えて信用情報機関の本人申告制度を利用することをお薦めします。信用情報機関には大きくクレジット系・サラ金系・銀行系の3種類があり,利用者のクレジットの利用内容などが登録されています。本人申告制度というのは,この信用情報機関に「自分のコメント」を登録する制度で,今回のケースでいえば,運転免許証を盗難されたことを登録することができます。登録したからといって悪用を完全に防ぐことはできませんが,少なくとも犯人が運転免許証を使ってお金を借りようとした場合,業者が運転免許証を盗難されている事実を知れば審査自体が通らないのが通常です。また,仮に業者が信用情報を確認せず貸し付けてしまったような場合にも上記Bに述べた意味での業者の過失が認定されると考えます。この本人申告制度は,運転免許証等を失くした場合のほか,「同姓同名別人の情報がセンターに登録されており、自分と間違えられるおそれがある」「裁判所から民事再生または破産の決定を受けている」などの情報も登録することができます。
4、身に覚えのない請求を受けた場合には,自分の判断で回答すると,債務の存在を認めることになるので,一度,弁護士などにご相談なさることをおすすめします。
第百九条 第三者ニ対シテ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者ハ其代理権ノ範囲内ニ於テ其他人ト第三者トノ間ニ為シタル行為ニ付キ其責ニ任ス
第百十条 代理人カ其権限外ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テ第三者カ其権限アリト信スヘキ正当ノ理由ヲ有セシトキハ前条ノ規定ヲ準用ス
第百十七条 他人ノ代理人トシテ契約ヲ為シタル者カ其代理権ヲ証明スルコト能ハス且本人ノ追認ヲ得サリシトキハ相手方ノ選択ニ従ヒ之ニ対シテ履行又ハ損害賠償ノ責ニ任ス