新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 【出廷確保、公正な裁判実現の事由として】 4、さて、保釈請求書では、権利保釈と裁量保釈について、具体的に主張することになります。権利保釈は、1の各号に該当していないということを示します。例えば、「被告人は捜査段階から事実関係を全て認めてこれを供述しており、現在までに被告人の取り調べが完了している他、公判維持に必要な他の証拠についても捜査が尽くされている。したがって、被告人が罪証隠滅を行う余地はない」「被告人には、定まった住居があり、妻と同居をしており、通常の社会人と何らかわりがない生活をしている。」などです。次に、裁量保釈(刑事訴訟法第90条)については、権利保釈の除外事由に該当し権利保釈が認められない場合でも、裁判所は裁量的に保釈を許すことできると規定されているため、例えば、被告の謝罪の意思が有り謝罪文が作成されていること。被害者との示談として具体的に金員を用意している。逮捕から勾留されて数十日の勾留期間の経過、どのような病気で健康状態が悪化している。勤務先からの解雇の恐れ有る事情、具体的な身元引受人(両親等)の存在などを示すことで、保釈許可決定の判断材料に加味させ保釈が認められる場合があります。
No.243、2005/4/20 14:45 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事・起訴後]
質問:友人が窃盗で逮捕され、捜査が進むにつれ余罪が露見し、窃盗の常習犯であることが発覚しました。現在、20日間勾留された後窃盗罪で起訴されましたが、この様な場合、今後保釈は認められるでしょうか。
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回答:
1、保釈の請求があつたときは、下記の場合を除いては、裁判所は、保釈を許可されなければならないと規定されています。(刑事訴訟法第89条)これを権利保釈といいます。下記の条項に該当する場合、つまり、権利保釈に該当しない場合、事情により裁判所が裁量により保釈を認める特別な事情が有れば、保釈が認められることがあります。これを裁量保釈といいます(刑事訴訟法90条)。
(1)被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
(2)被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮にあたる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
(3)被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯したものであるとき。
(4)被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
(5)被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
(6)被告人の氏名又は住居が判らないとき。
2、保釈の請求ができるのは、勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹と規定されています。(刑事訴訟法第88条)あなたが、ご友人であれば、保釈請求をすることはできませんが、仮に、弁護人が選任されているようであれば、弁護人が保釈請求書を作成し、身元引受人の身元引受書(例文:被告人は被告事件について勾留されているところ、保釈を許可された場合には、私が被告人の身元を引き受け、責任を持って被告人の監督を行い、公判期日等への被告人の出頭並びに保釈条件の遵守につき、被告人に厳守させることを誓約いたします。)などの書面を添付の上、裁判所に提出することになります。裁判所は、検察庁の意見を聞くなどし、通常1週間以内に保釈許可決定を下すかどうかを決めます。
3、今回の相談では、友人につき同種窃盗の余罪が多数有り、「常習性」が有ると考えられ、捜査が進むにつれ余罪が露見しているという経過を考えると、罪証隠滅のおそれ(同法89条4号)等がないとするのは実務上難しい場合も多く、当然には保釈が認められません。従って、常習性があっても裁判所の裁量により保釈を認めてもらう事情を立証しなければ成りません。そもそも、勾留は、被告人の公判廷への出廷を確保して、適正迅速な裁判を行うための制度です。しかし勾留には未決である被告人の身体的拘束を伴うので、この弊害を補い未決の被告人の不利益を最小限にするものとして保釈があるのです。即ち保釈は、被告人の身体の自由拘束を避けながら、保証金により公判廷の出廷確保を目的にしているものです。適正、迅速な裁判を行うことが出来ない可能性がある場合は、保釈は当然認めることが出来ないわけです。裁量保釈許可を求める主張事実は、保釈を認めても、公判廷の出廷確保、公正な裁判確保が可能であり、他方、被告人の身体拘束により、未だ有罪と決まったわけではない被告人の人権上、社会生活上の不都合、不利益を詳しく立証する必要があります。
・家族等の身元引受人の存在
・職業、勤務先の内容、安定した勤務先かどうか
・住居の一定
・家族構成
・起訴事実を認めているかどうか
・逮捕当時からの取り調べに対する態度、否認かどうか
・証拠が揃っているかどうか
・検察官側の立証の程度内容
・共犯者の有無
・被害者との示談状況
・被害者への謝罪の意思の存在
・被告人の身体の自由拘束の不利益事由
・勤務先の地位などから被告人の拘束による不利益の大きさ、解雇の可能性
・逮捕から勾留期間の程度
・身体の健康からの理由
・家族における被告人の立場
などが考えられます。
5、以上のように、保釈請求書は、権利保釈と裁量保釈について具体的に示すことで、裁判所に対し、保釈を請求するものですが、上記のように要件が法律で定まっていますので、事前に、保釈が認められる具体的事実の主張が必要です。保釈請求を行う場合には、ご自身だけで考えず、具体的なご質問については、お近くの弁護士にご相談することをお勧めします。