新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.259、2005/6/17 17:01 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、公務員ですが、飲み会の帰り、酒に酔ってゲームセンターに入り、ゲーム機の操作のことで店員と喧嘩になり、相手を何回も殴ってしまい、全治2週間の怪我を負わせてしまいました。その時はかなり酒を飲んでおり、喧嘩の状態はほとんど憶えていません。警察署に行って良く憶えていませんと言ったら、検察庁に送られてから10日間の勾留が決定されました。急いで知り合いの弁護士さんを呼んだところ、「殴ったことをまったく憶えていないのであれば、心神耗弱で争うか、不当逮捕で争うかを考えたほうがいいい、いずれにしろ勾留決定がある以上10日間は留置場にいるしかないでしょう。」といわれました。仕事の関係上一刻も早く職場に復帰したいのですが、どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、あなたの行為は、傷害罪(刑法204条)に該当します。お話によると、酒によって偶発的にお店の従業員を殴ったものと考えられますから、全治2週間は程度が重いですが、通常は警察で事情聴取され帰宅を許されるはずです。検察庁に送られ勾留決定をされたということは、あなたが、「殴ったことは良く憶えていません。」と捜査官に話したからでしょう。あなたとすれば、本当に憶えていないのですから、事実をそのまま話したのだと思います。しかし、捜査機関からすれば、目撃者等の証拠があるのに、被疑者が覚えていないというのは、犯罪事実を否認していると考えることになります。犯罪者が、記憶にない、憶えていないと言い訳をして、他に証拠がない場合には罪を逃れようとする場合も考えられるからです。それに、憶えていないとの一言で、釈放してしまったら酒に酔った事件はほとんど立件できないことになってしまいます。すなわち、検察官、警察官は、目撃者等の証拠があるのにこの被疑者は否認している、釈放しては目撃者、被害者に不当な圧力をかけ証拠隠滅を行う危険があるかもしれないと考え、刑事訴訟法(207条、60条、61条)に基づき勾留請求され、裁判所で裁判官からの勾留質問により勾留が決定されたのです。一般的には捜査機関に違法、不当なことはないように思います。
2、傷害罪は立派な犯罪ですから、正当防衛など特別な事情がない限り、手続的には、弁護士さんが言うように10日間は留置場、警察署にいなければなりません。しかし、公務員であるあなたが、一刻も早く職場復帰を希望することは当然のことです。そこで以下のような方法も考えられますから参考にしてください。
@あなたの場合、すでに勾留決定されてしまいましたが、このような場合、そもそも勾留請求、決定をされないようにすることが大切です。それは、逮捕後依頼した弁護士に、捜査機関に本件傷害行為の証拠がそろっているかどうか確認してもらい、目撃者等の十分な証拠があるのであれば、弁護士と協議し裁判の勝訴の可能性を検討して、無罪の証明がまったく無理であれば、犯罪事実を認める書面を作成し至急捜査機関に提出することです。あなたは住居、身分がしっかりしていると思いますから、警察官、検察官、裁判官に身元引受書、被害金支払予定書などと一緒に事前に提出すれば、送検されない可能性、勾留請求されない可能性、勾留決定されない可能性があるからです。但し、これは、時間との勝負になります。刑事訴訟法(203、205条)上、逮捕から、勾留決定まで最大72時間しかありません。実質的には48時間程度でしょう。その間に弁護士への依頼、弁護士の接見、捜査機関との面接交渉、書面の作成、提出をしますので、時間的余裕がないのです。特に土曜日曜の場合は協力してくれる弁護士を探すのも結構大変です。勿論、犯罪事実そのものがないような場合、正当防衛のような事実があるようであれば、この方法は使えません。
A勾留決定された後はどうでしょうか。これもまだ諦めてはいけません。決定された後も同様に@の書面を作成し、検察官と釈放、在宅取調べの変更交渉をすることです。処分決定を延期してもらうのです。しかし一度勾留請求をした検察官ですので、容易には在宅変更を認めないのが通常です。この場合、弁護士を通じて、被害者への謝罪、被害の弁償、被害者側に今後不当な圧力をかけないとの誓約についての詳細な予定を検察官に伝えてもらうことです。直ちに釈放されることがなくても、勾留の短縮、在宅への変更や勾留延長10日間はなくなる可能性があります。また、検察官によっては、簡易な裁判手続(略式手続き、刑事訴訟法461条)により罰金を科し(本件では数十万円程度)、早期釈放に応じてくれる場合があります。
Bしかし、罰金でも前科となりますから、公務員であるあなたにとっては、職務上何らかの不利益処分の可能性があります。そこで、早期釈放、不起訴処分のために行う手続を提案します。それは、被害者と示談、和解をして、被害届告訴を取り下げてもらうことです。あなたが、初犯であり計画性がないのであれば、被害者が示談に応じ被害届を取り下げ、処罰の意思を放棄すれば、検察官は、起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)の観点から処分を見合わせてくれる可能性が大きいのです。被害者の被害程度を確認し、誠意を持って被害者側の要望を聞き円満和解することです。被害者側は、傷害により社会人としての面子を公衆の前でつぶされていると考えられ、容易に示談には応じてくれないかもしれませんが、あなたの立場上、交渉をしてくれる弁護士を探し一刻も早く示談交渉を開始することです。誠意を尽くせば道は開けるものです。適正な示談がまとまれば、通常翌日取調べが再開されたり、問題がなければ釈放してくれたりすることが多いと思われます。

≪参照条文≫
刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第六十一条  被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百五条  検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、五十万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

刑法 
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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