新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.266、2005/6/17 18:08 https://www.shinginza.com/idoushin.htm
[刑事・起訴前][行政]
質問:医師や歯科医師が逮捕された場合、どのような流れで刑事処分・行政処分が下されるのですか。
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回答:
1、まず刑事処分の流れですが、警察に逮捕されると、通常は48時間以内に検察庁に送致され(刑訴203条)、その後24時間以内に、検察庁が勾留請求するかを決定します(刑訴205条)。勾留するかの判断は所轄裁判所により行われ、勾留期間は原則10日間、最大で20日間です(刑訴208条)。検察庁における取調べの結果、起訴され、略式手続きが取られた場合は即日に、正式裁判になった場合は2ヶ月〜半年程度(重大犯罪を除く)で判決が言い渡されます。判決の言い渡し後2週間で判決は確定しますが(刑訴373条)、確定前に控訴・上告の提起をした場合は判決確定までに数年かかることもあります。
2、刑事手続きにおける弁護士の主な活動としては、起訴前は被害者との示談交渉や検察官との交渉などを行い、起訴後は被告人の代理人として裁判に出廷することになります。
3、医師や歯科医師の場合には、有罪判決が確定してしまうと、免許取消あるいは医業停止命令といった行政処分を受ける可能性が高いです(医師法4条、7条)。行政処分の流れですが、判決確定後、約半年以内に、都道府県より対象者(有罪判決を受けた医師や歯科医師)に事案報告をするよう連絡があります。対象者は連絡を受けてから約1ヶ月以内に都道府県に対して事案の報告をし、その後、数ヶ月以内に都道府県より厚生労働省に事案が報告された後、半年以内に、通例年2回開催されている医道審議会の諮問にかけられることになります。医道審議会の第1回審議では、免許取消処分か医業停止命令処分かの区分が決定し(医師法7条4項)、免許取消処分相当の場合は都道府県医務課等による意見の聴取手続き(医師法7条5項)が、医業停止命令処分相当の場合は都道府県医務課等による弁明の聴取手続き(医師法7条11項)が行われます。
4、免許取消処分相当と判断されたときに行われる意見の聴取手続きの流れですが、まず厚生労働大臣より都道府県知事に意見の聴取対象者の通知があり(医師法7条16項)、その後、都道府県知事より対象者本人に、処分の根拠条項及び内容を明示して事前通知が送られます(医師法7条6項による行政手続法15条準用)。そして、主宰者の指名(医師法7条6項による行政手続法19条準用)・文書閲覧の許可(医師法7条6項による行政手続法18条準用)・関係人の参加(医師法7条6項による行政手続法17条1項準用)・補佐人の出頭の許可(医師法7条6項による行政手続法20条3項準用)などの手続きを経て、事前通知後1ヶ月程度で、意見の聴取の期日における審理が行われます。審理後は、主宰者より都道府県知事に調書・報告書が提出され(医師法7条6項による行政手続法24条準用)、さらに都道府県知事より厚生労働大臣に意見書が提出されます(医師法7条8項)。
5、医業停止命令処分相当と判断されたときに行われる弁明の聴取手続きの流れですが、意見の聴取手続きと同じく、まず厚生労働大臣より都道府県知事に弁明の聴取対象者の通知があり(医師法7条16項)、その後、都道府県知事より対象者本人に、処分の根拠条項及び内容を明示して事前通知が送られます(医師法7条12項)。そして事前通知後1ヶ月程度で、弁明の聴取の日時における聴取が行われ、都道府県知事より厚生労働大臣に聴取書・報告書が提出されます(医師法7条15項)。
6、意見の聴取手続きにおいては審理が行われてから、弁明の聴取手続きにおいては聴取が行われてから、半年以内に医道審議会の第2回審議が開かれます。第2回審議では、厚生労働大臣に対する答申の内容が決定され(医師法7条4項)、数日後にその結果を厚生労働大臣に答申したうえで、厚生労働大臣から対象者に行政処分が下されます。
7、行政手続きにおける弁護士の主な活動としては、都道府県や医道審議会に対する報告書や上申書などの作成・提出、また、審理や聴取の期日における代理人としての出席などがあります。弁護士の意見書では、刑事裁判で認定された事実関係の評価や、適用された罰条や量刑についての法解釈について、刑事裁判時とは異なった観点(行政処分の必要性、相当性、許容性)で論証を行い、対象者の処分が不当に重くなってしまうことを防止すべく弁護活動を行います。免許取消よりは医業停止、さらには処分なしとの判断を得るべく活動することになります。さらに、厚生労働大臣から下された行政処分に不服がある場合は、対象者の代理人として行政訴訟を提起することになります。
8、以上のような行政手続での争いは、厳しい争いとなりますので、まずは逮捕された段階で、できる限り不起訴処分を得る(有罪判決を受けない)ように、弁護活動を行うべきことにはなりますが、判決後も活動の余地はありますので、諦めずに弁護士に相談して下さい。特殊な手続きになりますので、弁護士にこの手続きについての知識や経験を確認してみるのもいいでしょう。