新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.276、2005/7/25 13:49
[刑事・違法性]
質問:友達から、儲かるいい話があるといわれました。自分の名義の預金通帳を作って、ある人に譲ってしまえばお金になる、というのですが、そういうことをしても大丈夫なのでしょうか。
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回答:
1、結論からいえば、ご質問のような行為は50万円以下の罰金刑が課される可能性のある犯罪行為であり、また、これを反復継続して行うような場合には、懲役刑が課されることもありえます。
2、最近、オレオレ詐欺などに代表される振り込め詐欺が横行していることは、ご承知のところだとは思いますが、これらの犯罪に、売買等によって流通した他人名義の預金口座が金員の振込み先として利用されていることが、この手の犯罪を横行させている大きな原因と考えられていました。そこで、「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」が罰則を伴うものとして一部改正され、名称も「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座の不正な利用の防止に関する法律」となり、平成16年12月30日より施行されることになりました。
3、同法によれば、まず16条の2、1項前段によって、@他人になりすまして預貯金契約に係る役務の提供を受けること、または、これを第三者にさせることを目的としてA預貯金通帳等の譲受等をしたものが罰せられ、同条2項前段によって、これに対応する形で、@相手方に上記なりすまし目的があることを知ってAその者に預金通帳等を譲渡等したものが処罰されることになります。預金通帳等とは、預金通帳、キヤッシュカードのほか、預貯金の引き出し又は振込みに必要な情報も含み、例えばインターネットバンキングのID番号やパスワードなどもこれに含まれます。あなたの場合はこれらを「譲渡等」する側にあたることになりますが、「譲渡等」というのは法文上は「譲り渡し」「交付」「提供」と言う形で規定されており、譲渡という形でなく、貸すような場合でも処罰の対象になることになります。
4、以上の法文によれば、あなたが、相手方の不正な目的を知らない場合には処罰されないようにも読めるので、では、相手方が悪いことに使うということを知らなければ、売っても良いのかというと、そうではありません。16条の2、1項後段、及び2項後段は、それぞれ、譲り受ける側、譲り渡す側について、たとえ、なりすまし目的がない、あるいは、なりすまし目的を知らない場合であっても、@有償でA同様の行為をした場合にはB正当な理由がない限り、どちらも同様の処罰を受けることを規定しています。「有償」というのは、必ずしも現実に金銭等の対価を交付される必要はなく、そのような約束がされればよいと考えられています。これは金融機関において適正な本人確認を受ければ、無償あるいは低額で預金通帳等を入手できるにもかかわらず、わざわざ他人から有償で譲り受けるような場合には不正利用目的があると考えられることから、なりすまし目的は不要と考えて良いということであり、また、譲渡する側も相手の不正目的を知っていたということが推認されると考えられるから、結局、両者とも前段の行為と同様に処罰できるということなのです。
5、以上から、あなたが自分の預金通帳を作り、第三者に譲ってしまえばお金になるなどという話は犯罪行為に他なりません。たとえ勧誘があっても断固として断わるべきです。なお、上記に正当な理由があれば処罰されないと書きましたが、「正当な理由」というのは、例えば、営業譲渡に伴って屋号名義の通帳が譲渡される場合など、通常の商取引や金融取引として行われる場合を想定しており、通常の売買で「正当な理由」があるとされることは基本的にはないと考えた方が良いでしょう。