新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.288、2005/8/19 10:59 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm
[民事・労働]
質問:就職内定した会社から、女性は一般職と言われました。総合職になるのはあきらめるしかないでしょうか。総合職になれたとしても、昇進が難しいかもしれません。そのときもあきらめた方がよいでしょうか。
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回答:
1.1986年の雇用機会均等法施行と前後して、大企業を中心に導入されるようになったのが、コース別雇用管理制度です。コース別雇用制とは、労働者の雇用に当たり、「総合職」と「一般職」の2つのコースに分けて、労働者にいずれかのコースを選択させる制度です。「総合職」は、将来の幹部候補生として基幹的業務、高い賃金、昇進・昇格あり、転勤・残業ありという条件のついたコースで、「一般職」は、定型的・補助的業務、低い賃金、昇進・昇格なし、転勤なしの条件のついたコースで、その処遇にはかなり差がつけられています。また、「一般職」から「総合職」へのコース間の移動については、「転換制度」を設けている会社もありますが、「上司の推薦」が要求されるなどその基準は大変厳しく、よほど将来を期待された人に限られています。コース別雇用制のもとでは、女性労働者は「一般職」への選択を余儀なくされることが多くなります。なぜなら、総合職では転勤・残業ありで、家庭生活と職業生活の両立が困難だからです。従って、このような場合、コース別雇用制は男女別雇用制となり、このようなコース別雇用制が、雇用の男女均等取り扱いを定めた均等法に違反しないかが問題となります。現実問題としても、2003年の厚生労働省の調査によれば、一般職は9割が女性であり、総合職に占める女性の割合は3%という結果が出ています。
2.(1)この点、「総合職は男性、一般職は女性」もしくは「一般職は女性のみ」という募集・採用については、1998年に旧労働省が出した「募集及び採用並びに配置、昇進及び教育訓練について事業主が適切に対処するための指針」に違反しますし、2000年に旧労働省が出した「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」という通達でも違反事項として定められています。2002年の野村証券判決においても、(コース別人事制度導入時のコースの割り振りについて、男性全員を総合職、一部例外を除く女性全員を一般職とした割り振りが、)性別を基準に画一的に当てはめたものとして均等法6条(配置・昇進等差別の禁止)に違反し公序に反して違法・無効の差別であるとしています。(また、同判決では、コース転換にあたって職場推薦と転換試験合格が条件となっていることは、一般職が全員女性であることから、女性に対してのみ総合職となることを困難にさせるものであったと判断しています。)一方、判決は、「男女のコース別人事は性による差別を禁止した憲法の趣旨に反するが、原告の入社(昭和32年〜40年)当時は一定の合理性があり、公序に反するとまでは言えなかった」と述べ、均等法の改正により配置や昇進などの差別について従来の努力義務から強行法規となった1999年以降についてのみ、コース別人事制度による男女差別が違法であると判断しました。この点から検討すると、現在の改正均等法の下においては、コース別人事制度が事実上男女別人事制度になっている場合は明確に違法であると考えられます。(2)他方、「総合職」「一般職」のいずれも男女双方の選択に委ねられている場合には、具体的に判断しなければなりません。男女に総合職の門戸を開放し、結果として男子が大部分であり、女子が少数にとどまったとしても、それは労働者各人の選択の結果であり、これを一概に不当とはいえないと考えられますが、その場合、@労働者の意欲、能力、適正や成果等に基づいて処遇する制度であること、Aコース等の各区分における職務内容や処遇について、合理性、透明性を高める制度となっているかどうかに留意すべきです(上記通達)。例えば、面接者に対し、長期勤続の予定か否か、転勤、出向に応じられるか否か、仕事に取り組む意欲等を問いただしたとしても、これが女性のみの選考基準や採用基準に差が設けられた結果であれば均等法違反となりますが(上記通達)、男女双方の選考基準とする分には明確に違反とは言えず、企業の採用の自由の範囲内ということもできます。しかし、選考基準において、女性が事実上満たしにくいもの(転勤等)については、企業側としても、その必要性を十分検討した上で個別事情への配慮の可能性を示すなど、各人の将来の職業生活の設計をふまえた自主的な選択が可能となるよう情報提供を行うことが望まれます。
3.質問の内容については、「女性は一般職」と定められ、女性は総合職として採用しないとの意図のもとでの会社の方針でしたら、事実上男女別人事制度といえ、均等法違反といえます。また、女性であるとの一事をもって昇進の道を閉ざしてしまう方針についても同様といえます。
4.募集・採用について差別を受けた女性労働者は、都道府県労働局長に援助を求めることができ、この場合、都道府県労働局長は、事業主に対し、必要な助言・指導・勧告をすることができます(均等法13条)。事業主が均等法5条に違反すると、私法上違法かどうかの問題が発生し、損害賠償請求権が発生する場合もあります(民法709条)。その際は、女性であることを理由に募集・採用差別を受けたことの立証が必要となります。