新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.301、2005/10/12 11:03 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事・起訴前]
質問:私の息子が1週間ほど前から警察に身柄を拘束されています。人の免許証を使って,何件かのクレジット会社から,数百万円のお金を騙し取っていたようです。息子には前科はありませんが,執行猶予がつくでしょうか。弁護士を頼むのとたのまないので違いはありますか。
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回答:
1、執行猶予がつくかどうかは,事案の内容にもよりますし,最終的には裁判所の判断によるので,必ず執行猶予がつくといいきることは残念ながらできません。一般的には,数百万円という被害額からしても,執行猶予がつくかどうか,ぎりぎりのところといえる事例だとは思います。ただし,息子さんは前科がないということなので,被害額を賠償して,被害者と示談ができれば,執行猶予がつく可能性はあります。
2、息子さんは現在,一週間ほど身柄拘束されているということですので,逮捕に引き続いて,勾留段階に入っていると考えられます。法律上は検察官の勾留の請求がされた日から10日以内(勾留は,さらに10日間まで延長されることがあります。)に起訴するかどうかの決定がなされることになっています。(特別の事件の場合には,さらに10日間まで勾留延長される場合がありますが,今回は詐欺及び文書の偽造あるいは行使の事件ですから,逮捕による身柄拘束をあわせると,逮捕された日から最大23日以内に起訴か不起訴の決定がだされることになります。)
3、また,法律上,一定の事件については,起訴された後は,国選弁護人をつけることができます。先ほど被害者と示談ができれば,執行猶予がつく可能性はあると言いましたが,示談は判決のときまでにできていれば,裁判所はそのことを考慮にいれて判決をしてくれますから,基本的には起訴をされてからついた国選弁護人に被害者との示談をお願いすれば良いということになります。
4、では,私選弁護人を頼むメリットは,どこにあるのかというと,起訴後から弁護人を頼む場合には,国選弁護人と私選弁護人の活動に理論上の差はなく,差があるとしたら,私選弁護人の方が,依頼者との間のコミュニケーションがはかりやすい,機動的に動きやすい(本当は国選弁護人であってもそうあるべきなのでしょうが,残念ながら,国選弁護人が一生懸命動いてくれていないと被告人の目にうつることは多いようです。)など,事実上あるいは依頼者の精神衛生上の問題ということになるのだと思います。そうすると,私選弁護人を依頼する最大のメリットは起訴前の弁護活動ということになります。息子さんが,容疑を否認しているような場合には,取調べに対する的確な対処方法をアドバイスするという意味で,弁護人の役割が大きいことはいうまでもありませんが,容疑を完全に認めている場合でも,弁護人は,起訴前に示談を成立させ,検察官に対し,身柄の解放及び不起訴の処分(不起訴処分がなされると前科がつきません。)をお願いするという活動をすることになります。起訴前の私選弁護人が,このような弁護活動をすることによって,例えば,強制わいせつなどの告訴がなされないと起訴できないとされている犯罪(親告罪といいます。)の場合は,示談ができれば不起訴になりますから,起訴前から弁護人を依頼するメリットは相当高いものといえます。ただ,本件のケースは親告罪ではないので,仮に起訴前に示談ができたとしても,必ず不起訴にしてもらえる訳ではありません。示談が成立したことを前提に,検察官が不起訴にしてもよいかどうか判断することになるのですが,総額数百万円という被害額からして,示談が成立しても,実際には,不起訴処分は難しいと思われます。また,いずれにせよ不起訴処分を求めるためには,当然のことながら,起訴の決定がなされるまでに,示談を成立させる必要がありますが,起訴の決定までには,上記のような時間制限がありますから(本件のケースではあと4,5日で起訴されてしまうかもしれません。),弁護士に依頼しても,時間的に起訴までに示談がまとまらなかったということも十分に考えられます。
5、しかし,それでも,本件のケースで,起訴前から弁護人を頼むメリットはある程度あるものと考えます。というのは,示談が成立すれば,不起訴になる可能性は当然ゼロではありませんし,仮に最初の1件は起訴されてしまったとしても,残りの事件について示談できていれば,残りの件について追起訴をしないという形で検察官が考慮することは十分考えられるからです。起訴されなかった余罪については,裁判では一応悪情状として裁判所に証拠として提出されることはありえますが,そのような場合でも,解釈上,裁判所は余罪を実質的に処罰することになるような形で,情状として考慮することはできないとされており,原則として,起訴された罪についてのみを基準に量刑の判断がなされるため,全部起訴されてしまうより,執行猶予の判決がでる可能性は高くなると言える訳です。この点,追起訴は1件目の起訴がなされてから,順次なされていくのが通常なので,起訴前に弁護人を頼まなくても,起訴後に国選弁護人がついた段階で,追起訴がなされるまでに示談ができれば,理屈上は同じ結論になります。しかし,国選弁護人がつくのは起訴されてからしばらくたってからになることが多く,また,上述のような機動性の点からも,国選弁護人がついてからでは,追起訴までに示談が間に合わないというケースも十分考えられます。起訴前から弁護人をつけておくことによって,早期に全体を見た弁護活動が可能ということになります。
6、本件のケースで,起訴前に私選弁護人をつけた場合のメリットは以上のようなものが考えられます。もっとも,息子さんのケースでは,起訴前から弁護人をつけるにこしたことはないとは言えるとしても,これによって画期的に,良い結果が得られるというケースとは言い切れません。逆にいえば,無理して起訴前から弁護人をつけることによって,被害弁償ができなくなってしまうようなケースがあるとすれば,費用のかからない国選弁護人についてもらうのを待って,示談を開始するほうが良い場合もあるかもしれません。起訴前弁護を依頼するにあたっては,以上のようなことをよく検討し,しっかりとした説明を受けてから依頼することをお薦めします。