新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.302、2005/10/12 11:10 https://www.shinginza.com/cooling.htm
[民事・消費者]
質問:親戚のおじいさんが一人暮らしです。点検商法の被害に遭わないか心配です。このような商法の手口を教えてください、また、被害をうけないために、成年後見の申立をした方がよいですか。
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回答:
1、点検商法とは、販売員が突然自宅を訪ねてきて、高額な商品を売りつける訪問販売の一種です。その中でも、無料で点検をするからといって家の中に上がりこみ、屋根や床下などを点検し、実際には修理・補修の必要性がないにもかかわらず。消費者が専門的な知識を持っていないことをいいことに、今すぐ修理しないと大変なことになる、などと言って高額なリフォーム工事などの契約を結ばせる、というものです。最近では、さらに悪質な手口として、業者が点検の際にわざと家屋に傷をつけ、あたかも最初から損傷があったかのように装って修繕を勧めるといった手口も報告されています。
2、このような点検商法の問題点としては、突然の訪問によって困惑しているところに乗じること、自分から店に行ったということとは異なり、購入者の自宅などで行われ、契約するまで帰ってくれない、これだけ時間をかけた責任を取れなどといった脅迫的な手段までとられること、今契約してくれないと他の訪問販売業者にも情報を流す、といった二次的被害を示唆すること、など、およそ考えられるありとあらゆる強引な手段を使って消費者に契約を迫ります。また、取引される商品はかなり高額なものが多いのですが、クレジット契約で契約させるため、月々の支払いは少なくて済むからと消費者を安心させたり、途中で解約やクーリングオフを申し出ても、クーリングオフはできないことになっていると虚偽の説明をしたり、ここまで着手した工事の損害賠償を払えなどと言ってくることもあります。
3、このような悪質商法に対する対策ですが、従来の民法などでは、対等な力関係にある当事者が想定されているため、言葉巧みに知識や経験に乏しい消費者(特にお年寄りや主婦など)をたくみに誘い込んで契約させるような悪質商法には対応しきれない面が多数あります。そこで、消費者契約法をはじめとするさまざまな法律によって、このような消費者を保護する体制がとられています。
4、具体的には、消費者契約法による、業者に対する禁止行為の制定、取消権の規定、特定商取引法による訪問販売の規制、クーリングオフ、取消権の規定などがあります。これらの法律では、業者の行為や販売している商品によって多少異なりますが、迷惑行為(立ちふさがり、付きまとい、居宅からの不退去など)を禁止すること、契約の際には、契約内容およびクーリングオフができることを明示した書類の交付をすることなど、業者が守るべきルールを定めるとともに、消費者側の武器として、クーリングオフ、取消権、損害賠償額の制限などが設けられています。
5、この中でも、消費者に有利な方法のひとつとして、クーリング・オフがあげられます。これは、一定の場合(店舗・営業所以外での契約であること、一定額以上であること、政令で指定した商品の契約であることなど)、理由のいかんを問わず、クーリングオフ期間内(取引内容によりますが、最短でも8日間)であれば、書面によって契約を解約できるというものです。これまでの民法などでは、解約するには詐欺、錯誤、契約不履行など、一定の場合に限られていましたので、理由を問わす解約できるという手段は消費者にとって強力な武器であるといえます。
6、次に、成年後見について簡単にご説明します。成年後見制度とは、被後見人が一定の状態にあるとき(加齢や病気などによる判断能力の低下、医師の診断が必要)、被後見人の財産や権利を保護するため、後見人を選任し、後見人が被後見人の財産の管理や、法律行為(契約など)に対する許可、取り消しなどの監督権を行使できるという制度です。後見人に就任すれば、被後見人が行った法律行為について、取り消しをすることができます。被後見人が悪質商法の被害にあっても、後見人の権限でその契約を取り消すことができます。成年後見が開始されていれば、ほとんどの契約行為を後見人の監督に服させることができる(日用品の購入などが除かれる)ので、悪質商法に対するかなり強力な武器となりえるでしょう。しかし、成年後見は、医師に診断を受けた上で、家庭裁判所に貢献の開始を申し立て、家庭裁判所の審判を経て開始されるものです。手続きにはそれなりの費用と時間がかかります。当然、貢献を終了するにも一定の手続きが必要ですし、後見人にも責任が生じます。
7、以上見てきたように、成年後見は確かに悪質商法からお年寄りを守る強力な手段になりえますが、手続的な負担や後見人の責任などの点でリスクもあります。その意味でも、消費者保護のための法律を駆使することを先に考えるべきだと思われます。弁護士に依頼すれば、業者に対して、契約を解除し、支払った金銭を返すように交渉することも可能です。もちろん、訴訟を提起することもできます。業者の中には違法だとわかっていてそのような業務を行っているものもありますから、素人の交渉では難航することが予想されます。また、消費者保護関連の法律は多岐にわたり、適用場面や要件・効果など様々ですので、実際に被害に会われた方は、お早めに弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。
8、また、被害にあわずにすむことが一番の対策であることは間違いありません。不審な人物を家に上げない、安易に書類に印鑑を押さない、甘い言葉を信用しない、脅しに屈しないなど、普段からご家族で話し合っておくことも重要です。