新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.304、2005/10/31 13:37 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・親子]
質問:父親(ギャンブル狂,酒乱)の親権を剥奪するには。

回答:
第1
1、父親から親権を剥奪する方法を検討する前に,ともすると曖昧な理解のまま使われがちな「親権」とは何を指すのかについて確認しましょう。
2、親権は,身上監護権と財産管理権とに分けられます。身上監護権とは,未成年の子供が一人前の社会人になるために,肉体的・精神的に監督・保護し,教育・しつけをする権利・義務をいいます(民法820条)。民法は,身上監護権の具体的な内容として,子供の居住場所を指定することができる「居所指定権」(同法821条),教育上必要な範囲で子供を懲戒することができる「懲戒権」(同法822条1項),子供が就職したり,事業を始めたりすることを許可することができる権利「職業許可権」(同法823条)を規定しています。そのほか,第三者が子供を不当に拘束する場合に,親権者に子供を引き渡すよう請求する権利なども身上監護権に含まれます。財産管理権とは,未成年の子供に財産がある場合に,子供のためにその財産を管理したり,売買など財産上の行為について代理をしたりする権利・義務をいいます(同法824条以下)。もっとも,わが国では,親が亡くなって遺産を相続しているような場合のほかは,子供がお小遣いのレベルを超えるような財産を所有していることはあまりないでしょう。
3、以上の権利・義務をまとめたものが親権です。親「権」というとあたかも親が子供に対して持っている権利のように聞こえますが,子供に対する親としての責務でもあることに注意しなければなりません。
第2
1、では,父親から親権を剥奪する方法はあるのでしょうか。
2、前述のとおり,親権は,子供に対する親としての責務でもありますから,親の身勝手を許すものではありません。そこで法律は,「父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる」として,親権喪失の制度を規定しています(同法834条)。
3、父親が酒乱でしつけと称して子供にいきすぎた暴力を振るったり,ギャンブルにつぎ込むために子供名義の土地建物,株券,預貯金などの財産に手をつけたりするような場合は,母親など子供の親族としては,家庭裁判所に対して,父親の親権の喪失を宣告する審判の申し立てることが考えられます(家事審判法9条1項甲類13号)。申立をすべき裁判所は,親権を剥奪すべき父親の住所地を管轄する家庭裁判所です(同規則73条)。申立ての具体的な方法については,家庭裁判所の受付窓口で問い合わせるか,弁護士に相談してください。
4、そして,家庭裁判所がした父親の親権の喪失を宣告する審判が確定したときは,父親は親権を失います。その効果として,例えば,親権を剥奪された父親は,居所指定権がありませんから,別居した子供に対し自分のところに戻ってくるよう請求することはできなくなります。また,第三者に対する子供の引渡請求権もありませんから,母親の両親が子供を預かった場合に,子供の引渡しを請求することもできなくなります。もっとも,親権を剥奪されたからといって親子の縁が切れるわけではなく,法律上も父親と子供の親子関係はそのまま存続します。例えば,子供を扶養する(生活費・養育費の面倒を見る)義務はなくなりませんし,また,父親が死亡したときには子供には相続をする権利があります。また,母親が既に亡くなっているなど,父親の親権喪失によって親権者がいなくなる場合には,家庭裁判所は,子供の親族等の申立てにより,後見人を選任することになります(民法838条,840条,家事審判法9条1項甲類14号)。後見人には,親権者と同一の権利義務が認められます(民法857条,859条)。後見人の候補者を決めて(親族の方が候補者になることもできます。),子供の住所地の家庭裁判所に未成年後見人選任の申立てをしてください(家事審判規則82条)。
5、このように,法律上,父親の親権を剥奪する制度がありますが,では,実際に親権が剥奪されるのはどのような場合なのでしょうか。前述の民法834条の「親権を濫用し,又は著しく不行跡であるとき」にあたるといえるのはどのような場合なのかが問題となります。過去の裁判例では,「親権の濫用」については,父親による暴行,性的虐待があった場合に親権の濫用を認めたものがある(長崎家裁佐世保支部審平成12年2月23日・家庭裁判月報52巻8号55頁)ほか,若干古い事例にはなるものの父親が自らの責任で子供と7年間にわたり別居し,その間子供の生活の面倒を一切見なかった場合に親権の消極的濫用を認めたもの(神戸家審昭和55年9月29日・家庭裁判月報33巻8号68頁)があります。他方,「著しい不行跡」については,未亡人が他の男性と情交関係を持つに至った場合の例がありますが,古いものが多く,今日では「著しい不行跡」が中心的な問題となるケースはかなり少ないようです。
第3
1、ところで,父親の親権の剥奪が問題となる場合のうち最も深刻なのは,おそらく,いわゆる児童虐待があるときでしょう。緊急を要するときは,まず市町村または都道府県の設置する福祉事務所または児童相談所にご相談されるとよろしいでしょう。
2、なお,離婚の際の親権の取扱いについては,以下のURLに関連する相談と回答がございますので,そちらを参考にしてください。
https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-shinken.htm

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