新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース ≪参照条文≫
No.319、2005/12/13 15:32 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事・起訴前]
質問:私は、宝石輸入会社の経理を補助していたものですが、借金返済や生活費に困り、補助鍵を使い会社の宝石類を金庫から半年にわたり持ち出し、市販価格で1000万円(仕入れ原価格では300万円、卸価格では600万円)ほど着服してしまいました。先日、会計の社内調査があり不足商品の問題が発覚し、はっきりしませんが会社が被害届を警察署に提出したようです。すでに、宝石類は換金して生活費に使ってしまい残っていません。事件が発覚した場合、私は、今後どうしたらよいでしょう。また、被害額は、市販価格で計算するのでしょうか。
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回答:
1、あなたの行為は、窃盗罪に該当しますから法定刑は10年以下の懲役となっており罰金はありませんから、通常であれば逮捕、勾留後公訴を提起され、有罪となり1−2年の有期懲役、実刑になることが予想されます。
2、今後の手続を簡単に説明しますと、あなたの犯罪行為が発覚すれば、突然あなたの自宅に捜査官が訪れ、任意同行を求められます。警察署での取り調べの結果犯行を認めると、裁判所が交付した逮捕状が執行されて拘束されます。証拠があれば逮捕状をあらかじめ用意して、自宅において家族の前で逮捕する場合もあると思います。しかし、事情聴取の結果、まったく逃走の危険がなく犯罪事実を素直に認めており、被害届と食い違いもなく証拠隠滅の危険もなければ、一旦家に帰されることもありますが、あなたの場合、犯行期間が半年に及び、犯行の回数が多いと思われますから、念のため逮捕勾留がされるのが通常でしょう。余罪もあるかどうか捜査するでしょうから、証拠隠滅を防ぐため検察官の勾留請求により、逮捕から最長23日間警察署の留置場に拘束されることになるでしょう。
3.あなたの行為は、窃盗罪に該当し、動機においても身勝手なものであり、犯行回数もかなりのもので被害額も高額ですから、通常であれば起訴されその後2ヶ月以内に公判が開かれ、起訴事実を争わなければ3ヶ月以内に裁判は終了すると思われます。結果的に検察官により2−3年の求刑がされ、謝罪も被害の弁償もされなければ1−2年の実刑が予想されます。
4.そこで、あなたが今後の取るべき方法を、あなたに有利な順に説明いたします。
@今、あなたに一番有利な方法は、逮捕される前に会社側に事実を話し、被害を弁償して早急に被害届を撤回してもらうことです。まだ、被害届が提出されていなければ、被害届を提出しないように交渉しなければなりません。販売価格で1000万円であっても、被害届が提出されなければ捜査機関が動くこともありません。相談の最中でも被害の内容について調査中であれば、撤回も容易と考えられます。被害額については、仕入れ価格が会社の実損害のように思われますが、あなたは、宝石類を通常の市販価格に順じて処分していると考えられますし、仕入れ価格以上の利益をあなたに残し認めることも出来ませんので、仕入れ価格は妥当でないように思います。その会社が、宝石の卸を通常しているのであれば、卸価格が妥当と考えられます。市販価格は、宝石を卸した先の利益が含まれているので、これを損害額とすることは妥当でないでしょう。しかし、今の段階であなたが犯人と断定、決定されていませんから、あなたにとって犯行の自白、申し出は勇気がいることかもしれません。
A次に、突然あなたが逮捕されてしまった場合ですが、この場合もまだ遅くありませんから、家族に依頼し被害の弁償をしてもらうか、弁護人を選任し、接見に来てもらい事情を詳しく話し、勤めていた会社と示談交渉を行い、被害を弁償し被害届、告訴がしてあれば告訴取り下げをしてもらうことです。民事上の示談をするだけでなく、被害届、告訴の取り下げ、更には直ちに釈放してほしいという意見書(これは弁護人が上手に作成してくれます。)に被害会社に署名をしてもらい、捜査機関に提出することです。市販価格1000万円の被害であれば、犯行回数からしても直ちに釈放が可能かどうかはお約束できませんが、可能性がないとはいえません。というのは、被害会社としても自社の社員が窃盗を会社内で繰り返していたことは、その会社にとっても自慢できることではありませんし、社会的な会社の信用に傷が付く恐れもあり、あなたを起訴し処罰することを望んでいないという点を捜査機関が汲んでくれ、公判請求を見合わせることがあるからです。すなわち起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)の観点から不起訴処分になることもあるのです。それに、被害の弁償は、いずれ公判請求がされたら必ずしなければなりません。もし被害の弁償をしなければ、ほぼ実刑は間違いありません。それなら、不起訴の可能性があるうちに示談して、釈放を要請したほうが賢明です。また、被害会社の損害は、あなたが終生逃亡無職の生活をするなら別ですが、刑期を終了し将来どこかで勤務していれば、民事裁判を起こされ遅延損害金を含めいずれ給料差し押さえ等により支払わなければ成らないものなのです。それなら、今、金員を用意し支払った方が有利に決まっています。更に、示談が成立していれば、仮に起訴されても常習性など特別なことがない限り、保釈の認められる可能性が非常に大きいからです。保釈金は200−300万円が必要です。逃走さえしなければ保釈金は全額返金されます。いずれにしろ、釈放により早く社会に復帰して働き、被害金借り入れ等の返済に充てたほうが得策です。この方法には、弁護費用など600万円以上の弁済金が必要ですから、金員を用意できるかがポイントになります。以上のような事情を家族に説明して、弁済金を用意してもらうことが必要ですね。
B次に、金員の用意できず起訴された場合は、やはり一刻も早く刑事事件に詳しい弁護人を選任し被害の弁償行い、保釈(但し、国選の弁護人の場合保釈申請をしない人もいると聞きます。その理由は保釈金があるのであれば、私選弁護人を選任すべきであるということのようです。)、執行猶予付き判決を受けるべく努力することです。不運にも、第一審で示談が出来ず実刑となってもそれからでも遅くありませんから、控訴して弁護人を通じなんとか被害を弁償することです。必ず、執行猶予が付くはずです。
刑事訴訟法 第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
刑法 第二百三十五条(窃盗) 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役に処する。