新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース ≪参考条文≫
No.327、2006/1/5 11:31
[民事・消費者]
質問:ある日、自宅に「紳士録」という本が送られてきました。このような本を注文したことはありません。あけてみると、一緒に何か書類が入っていました。「本商品を購入する意思が無い場合には、商品の返送、または、購入しない旨の書面による意思表示を、3日以内に当社あてに通知してください。いずれも履行されない場合、購入の意思があるとみなされます」という注意書でした。よくわからないので放置していたところ、代金の請求が来るようになりました。相手は書面に書いてあるとおりだから払ってもらうの一点張りです。代金を払うしかないのでしょうか。
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回答:
1、このように、申し込んでもいない商品を勝手に送りつけ、相手に対し購入を要求するような押し売り商法のことを、「ネガティブ・オプション」と呼んでいます。あなたが代金を支払う義務を負っているか否かは、売買契約が成立しているかどうかによります。本という商品の売買契約が成立していれば、あなたは商品を受け取っているのですから、商品の代金を払う義務があります。では、本件のようなケースで売買契約は成立しているのでしょうか。
2、契約の成立は、意思の合致によります。すなわち、売りたいという意思と、買いたいという意思が表示され、相手に到達し、それが合致すれば、売買契約は成立することになります。理論的にはそれだけで成立であり、契約書や領収書などは、この意思の合致を証明する証拠に過ぎないということになります。
3、今回のケースではどうでしょうか。あなたは業者の言う「3日以内に」この商品を購入する意思が無いことを相手方に通知(または商品の返送)をしていませんから、購入する意思がある、とみなされてしまうのでしょうか。結論から言うと、それはありません。業者から商品が送られてきた場合、これは業者から「売りたい」という意思が表明されただけで、こちらが「買いたい」という意思表示をしない限りは、意思の合致がありませんから、契約は成立しません。また、具体的な法律の根拠もないのに、ある人の意思表示があったかのように推定することはできません。したがって、本件では契約が成立していないことになり、あなたは売買代金を払わなくて良いことになります。
4、しかし、これだけでは、問題は全て解決したとはいえません。契約が成立していないのですから、民法の考え方だけですと、商品の所有権は業者にあることになります。そこで悪質な業者は、商品の所有権を主張し、他人の物を勝手に開けたとか汚したなどと言って、損害賠償請求をするという脅しをかけてくることもあります。また、商品を送り返す送料もかかりますし、ひどいときには送り返すあて先住所がわからない場合もありえます。
5、そこで、特定商取引法では、ネガティブ・オプションに対して、対抗できる方法を定めています。すなわち、
(1)販売業者は、申し込みを行っていない者に対して売買契約の申し込みをし、または、申込者に対してその売買契約にかかる商品以外の商品について売買契約の申し込みをし、
(2)かつ、その申し込みにかかる商品を送付した場合において、
(3)その商品の送付があった日から起算して14日以内に、または、商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引き取りの請求をした場合におけるその請求日から起算して7日以内に
(4)商品の送付を受けたものがその申し込みについて承諾をせず、かつ、販売業者が商品の引取りをしないとき
(5)その送付した商品の返還を請求することができない
とされています。簡単に言うと、14日経つか、引取りの請求をしてから7日経てば、業者はその商品を取り戻すことができない、すなわち、こちらで勝手に処分してかまわない、ということになります。
6、本件の場合でも、14日経過すれば、業者はこの商品について何もいえませんので、あなたがこの商品を自由に処分することができます。また、引取りを請求すれば、その期間は7日に短縮されます。ただし、商品をこちらで処分するというのは、余計なトラブルの元にもなりかねませんので、可能な場合には着払いでとりあえず返送してしまうという方法が妥当とも思われます。また、商品が送られてくる場合のほとんどは、家族の方が通信販売を利用していたというケースのほうが多いでしょう。また、引き取りの請求は、後でトラブルにならないよう内容証明郵便によることが望ましいことや、この種類の業者は悪質な者が多く、こちらが正当なことを主張しても難癖をつけて金銭を要求することも多いようです。このようなことが起こった場合は、事案の見極めから交渉まで、トラブルの解決にはできれば弁護士などの専門家に具体的な相談をされることをお勧めいたします。
特定商取引法 第59条(売買契約に基づかないで送付された商品)
販売業者は、売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者及び売買契約を締結した場合におけるその購入者(以下この項において「申込者等」という。)以外の者に対して売買契約の申し込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合又は申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合において、その商品の送付があつた日から起算して十四日を経過する日(その日が、その商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合におけるその請求の日から起算して七日を経過する日後であるときは、その七日を経過する日)までに、その商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない。
2 前項の規定は、その商品の送付を受けた者のために商行為となる売買契約の申込みについては、適用しない。