新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.349、2006/2/6 13:43 https://www.shinginza.com/qa-hasan.htm
[債務整理・破産]
質問:私は,15年前から賃貸で店舗を借り,妻と2人で居酒屋を経営しています。居酒屋の経営そのものは,現在もなんとか成り立っているのですが,10年前に自宅マンションを購入した際の住宅ローンが滞りがちで,返済のために借入れを行った消費者金融に対しての負債が増加する一方です。マンションについては,オーバーローンの状態ですし,破産するしかないと思っているのですが,その場合,居酒屋経営は続けられるのでしょうか。
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回答:
1、破産制度は,破産決定時における破産者(債務者)の財産を,破産管財人が管理・換価して,債権者に配当するものです。したがって,破産をしたからといって,個人事業の継続が不可能になるのものではありませんが,営業の継続に不可欠な財産が破産手続上,管理・換価の対象となる場合には,事実上,営業の継続は困難になると思われます。東京地方裁判所の現在の運用では,概ね,一定の種類の財産ごとに20万円を超えない財産等は,換価を要しないこととされており(なお,99万円に満つるまでの現金も,債権者に配当されることなく,破産者自身が保持できます。),したがって,飲食店等の個人事業を行っている場合,店舗の敷金・保証金,什器・備品,営業用自動車,在庫等が,上記の運用に照らして,管理・換価の対象になると破産後の営業の継続は難しいでしょう。また,破産をすると,リース物件やオートローンで所有権留保が付された自動車等は債権者による引上げの対象となるため,営業上重要な備品がリースの対象である場合や,営業に用いる自動車に所有権留保が付されている場合なども営業の継続は難しいかもしれません。
2、なお,これに関連して,本件が破産手続上,(ア)同時廃止事件として処理されるのか,(イ)管財事件となるのかの問題もあります。(ア)同時廃止事件とは,破産者の全財産(差押禁止財産等を除く)をもっても,破産手続費用を償うに足りないため,破産手続開始決定と同時に破産手続廃止により,配当を行うことなく手続が終了する事件をいいます。この場合,裁判所から破産管財人が選任されることはありません。これに対し,(イ)管財事件とは,破産手続開始決定とともに破産管財人が選任され,手続が進行していく事件をいいます。管財事件には,@破産者の財産(差押禁止財産等を除く)が換価・配当されて手続が終了するケースのほか,A破産決定時に財産状態が不明,または,手続費用は賄える財産を有していたものの,破産管財人による財産調査の結果,債権者に配当する財産までは存在しないことがわかり,配当によらず破産手続が終了するケース(異時廃止といいます。)があります。なお,かつては,管財事件になった場合の手続費用(予納金)は非常に多額だったのですが(通常管財手続),現在の東京地裁では,通常は20万円の追加予納金で足りることになっています(少額管財手続)。(ア)同時廃止事件になるか(イ)管財事件になるかは,原則として20万円以上の財産を有しているかどうかが基準とされていますが(この場合は,現金も99万円ではなく,20万円が基準とされています),自営業者の破産事件においては,財産関係を厳正に調査すべきとの観点から,仮に20万円以上の財産を有していない場合であっても,管財事件とされることが多いようです。
3、以上からおわかりのように,あなたの場合,換価の対象になるような営業上の財産を有していない場合には,破産をしても営業の継続は可能ですし,同時廃止の手続で迅速に解決がはかられることもあり得ます。ただし,営業継続にあたっては,既存の債務がなくなれば居酒屋経営で生活が成り立つのかどうかを慎重に吟味すべきでしょう。