新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.356、2006/2/17 14:27 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

[民事・証拠]
質問:私は,ある弁護士の先生に任意整理手続きをお願いしているところなのですが,先日,先生から,「10年前から取引をしている1つの業者が,過払金の返還に応じないから過払訴訟をせざるを得ない。」と言われました。私は,その業者と最初に交わした契約書や返済金を払う際にもらえる明細書などを全部捨ててしまっていていわゆる証拠らしいものが全くないのですが,これでも裁判をやって本当に過払金を取り戻すことができるのでしょうか。

回答:
1、ご質問は,いわゆる過払訴訟に関するものですが,今回のように,弁護士などに任意整理手続きを依頼中に,過払金の存在が発覚して金融業者に対しその返還を求めたものの,業者がこれに応じなかったりすることにより民事裁判をやらざるを得ないというケースがよくあります。
2、そして,本件の過払訴訟は,裁判上は不当利得返還請求訴訟に分類され,通常,このような裁判においては,過払金の返還請求をする側すなわち過払金の返還を求める方が,問題となっている取引の存在や返済の事実などを主張したり,証拠で証明したりする必要があります。そうすると,今回のように全く証拠らしきものがないとそもそも裁判を提起して訴訟を維持できるのかという問題が生じてきそうなところです。
3、しかし,今回のケースでは,訴訟の前に弁護士が任意整理手続きを行っているようですが,通常,この任意整理手続きをする際には,弁護士が金融業者に対して取引履歴を開示するよう要求します。そして,金融業者は,このような開示請求に対し,開示義務があることが,これまでの最高裁判例や貸金業規制法,金融庁事務ガイドラインなどにより認められていますので,多くの業者が何らかの形で取引履歴を提出してきます(なお,開示を怠った金融業者に対して慰謝料の支払いを命じた判決も多くあります。)。もっとも,悪質な業者の場合は,開示自体を拒否してきたり,取引経過の一部しか提出しなかったりすることもありますが,このように業者が出してきた取引履歴は,過払訴訟の際に,取引経過を証明する証拠として裁判所に提出することができます。
4、また,平成15年4月に施行された個人情報保護法に基づき,金融業者が顧客に対して取引履歴開示に関する手続を規定している場合には,その手続をご本人で行っていただくことによって,取引履歴に関する書面を入手できることもあります。もっとも,ほとんどの場合,手数料を必要とする他,一部の取引履歴しか開示されないこともあります(ただ弁護士や司法書士においては,上記のとおり,そもそも金融業者に開示義務があると考えていますので,費用がかかってしまうこの手続によって取引履歴を入手するという方法については一般的に積極的ではないと思われます。)。
5、さらに,これは,裁判を実際に行う弁護士又は司法書士が行うことですが,裁判中に相手方業者に対し,文書提出命令を行うよう裁判所に申立てを行い(民事訴訟法221条),問題となっている取引に関する文書を強制的に提出させるよう求めたり,訴訟提起の段階で,相手方に立証を要するような形で訴状を記載したりして,事実上,相手方に取引履歴を開示させるような戦略をとることも可能です。また,裁判中に,相手方が,全ての取引履歴を開示した上で,話し合いによる解決を求めてくることもあります。以上のように,過払訴訟においては,今回のような証拠となるような書面がない場合でも,何らかの方法を採ることにより現実的に過払金の返還を受けることができることが多くありますので,証拠がないからといって諦めるのではなく,ご依頼の弁護士とよく協議した上で訴訟を行うか検討していただけるとよろしいかと思われます。

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