新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.357、2006/2/17 14:42 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事・起訴前]
質問:ある事件で疑いをかけられ、連日警察に呼び出され取り調べを受けています。このままでは仕事もできないのですが、応じないと逮捕すると言われています。今後はどのように対応すればいいでしょうか。
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回答:
1、通常逮捕の要件等
(1)現行法上,逮捕には,@通常逮捕(刑事訴訟法199条以下),A緊急逮捕(刑事訴訟法210条),B現行犯逮捕・準現行犯逮捕(刑事訴訟法212条以下),の3つの類型がありますが,本件では,@通常逮捕が問題となります。
(2)通常逮捕の要件としては,(ア)逮捕の理由と(イ)逮捕の必要性の2つが必要になります。(ア)逮捕の理由とは,「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項)すなわち,犯罪の嫌疑を肯定することができる客観的・合理的根拠があることとをいい,(イ)逮捕の必要性とは,具体的には,被疑者の逃亡のおそれ,罪証(証拠)隠滅のおそれ等をいいます(刑事訴訟法199条2項但書,規則143条の3参照)。
(3)通常逮捕の手続としては,検察官・司法警察員(警部以上の警察官等)が逮捕状を裁判所に請求し,裁判官が,上記(ア)逮捕の理由と(イ)逮捕の必要性という2つの要件の有無について審理した上でこれらがあると判断すれば,逮捕状を発布し,これに基づき,検察官・司法警察職員(警察官)が被疑者を逮捕する,という流れになります。したがって,本件においても,あなたが本当に犯罪を行ったのかどうかは別として,逮捕状請求の後,裁判官が,上記(ア)逮捕の理由と(イ)逮捕の必要性という2つの要件があると判断すれば,あなたは逮捕されてしまうことになります。
(4)それでは,どのように対処すれば良いのか,ということですが,結論から述べると,(a)警察の出頭に応じなければ,逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがあると判断されて逮捕されてしまう,(b)出頭に応じても,容疑を否認すれば,やはり,逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがあると判断されて逮捕される,(c)出頭に応じて,容疑を認めたとしても,(事案が特段,軽微なものでなければ,)嫌疑が十分であるとして逮捕される,というように,結局は,どのような行動を選択したとしても,逮捕につながる可能性は否定できません。したがって,現に捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられた以上,あなたとしては,まず,確実に逮捕を免れる方法などというものは存在しないということを認識してください。
2、対処の仕方
(1)それでは,そのような前提に立った上で,あなたは,具体的にどのような行動をとるべきでしょうか。この種の問題は,基本的には,ケースバイケースで対処するほかありませんし,弁護士によっても考え方に違いがありますが,一つの考え方として,以下のようにお答えいたします。
(2)まず,逮捕の要件が(ア)逮捕の理由と(イ)逮捕の必要性の2つとされている以上,それぞれに対応して,(ア´)犯罪を行っていないこと,(イ´)逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがないことを捜査機関や裁判所に理解してもらうことが基本でしょう(但し,(ア´)と(イ´)の主張は,両立しがたい場合もあります)。(ア´)犯罪を行っていないことを理解してもらうためには,捜査への協力が不可欠ですので,ある程度の事情聴取は甘受せざるを得ないでしょう。あなたとしては,任意の出頭・事情聴取に応じた上で,積極的に,自らの無実を主張することになります。ただし,そうはいっても,連日の出頭に応じていては,仕事や家庭生活その他様々な支障をきたすでしょうから,捜査機関の呼出し全てには応じられないこともあるでしょう。このような場合は,(イ´)逃亡や罪証(証拠)隠滅の意思がないことを捜査機関や裁判所に理解してもらうことが必要です。例えば,捜査に協力する意思はあるが,現在の仕事や家庭状況では,連日の出頭が困難であるという具体的な事情や,社会生活上の地位や仕事・家族関係等からして逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがありえないこと等を書面にした上で捜査機関や裁判所に提出することが考えられます。
(3)ただし,先に述べたように,この種の問題に対しては,いろいろな考え方がありえますし,最終的にはケースバイケースで判断すべき事柄であり,事案によっては,たとえば,一切,出頭に応じずに,徹底抗戦するという方法をとることで,結果的に,捜査機関が証拠不十分として逮捕を断念するケースなどもありえるでしょう。あなたとしては,上記逮捕の要件(ア)(イ)を理解した上で弁護士に相談し,当該事案において,逮捕を回避するためにどのような手段を選択するのが最も適切かを検討してみてください。