新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.358、2006/2/17 14:48 https://www.shinginza.com/seinen-kouken.htm

[民事・契約]
質問:最近,息子に大手消費者金融1社から900万円の借入があることが発覚しました。息子によると,一昨年,消費者金融の担当者に指示されるままに,認知症でほとんど判断能力のなかった当時90歳の父(息子の祖父)を連帯保証人にした上,父が所有する土地に抵当権を設定させたとのことです。父は,昨年,死去したのですが,唯一の相続人である私は,父の連帯保証債務を引き継がなければならないのでしょうか。なお,生前,父は法定後見制度を利用しておりませんでしたが,介護保険における要介護認定を受けていました。

回答:
1、本件のように,被相続人が債務を負担しており,また,所有不動産に抵当権が設定されている場合,相続人は,積極財産とともに債務を承継することになりますし,承継する不動産について設定された抵当権はそのまま存続することになります。
2、しかし,本件では,連帯保証や抵当権設定を行ったお父様にほとんど判断能力がなかったとのことですので,場合によっては,そもそも連帯保証や抵当権設定そのものが初めから無効であると解される余地があります。すなわち,連帯保証や抵当権設定は,契約という法律行為の一つですが,法律行為が有効であるためには,当事者に,意思能力(自己の行為の結果を判断できる精神状態)がなければならず,もし,契約締結時に意思能力がなければ契約は無効になるのです。
3、それでは,お父様がどのような状態であれば,意思能力がなかった,といえるでしょうか。認知症(痴呆症)患者の意思能力の有無が争われた過去の裁判例を分析すると,連帯保証契約等については,高度の認知症(痴呆症)の医学的判断が認められるケースでは,概ね意思能力が否定されておりますし,中程度の認知症(痴呆症)のケースでも,意思能力が否定されているものがあります。
4、したがって,あなたとしては,意思能力の有無についての判断資料として,まずは,お父様の主治医に面接等を申し入れ,お父様の認知症が医学的にどの程度のものであったのかを確認し,診断書を作成してもらうことが大切でしょう。また,単に病名等が記載された診断書にとどまらず,当時の診療録(カルテ)や,医師指示表・看護記録・諸検査結果票,X線写真その他の関係書類の交付を求めることや,当時の判断能力の内容についての具体的な照会を行った上,書面での回答を求めることも重要です。
5、次に,以上のような医学的判断に加え,当時のお父様の意思能力に関する具体的な事実についての判断資料が入手できないか,検討してみてください。例えば,お父様の場合,介護保険を利用していたということですので,要介護認定手続に関する文書を市役所等から入手することが有効だと思われます。主治医意見書,認定調査票,介護認定審査会資料等から,お父様の当時の具体的な判断能力についての詳細な事実が得られることもあり,裁判上,有力な証拠にもなりえます。
6、以上のような検討をした上で,お父様に意思能力がなかったと思われる場合は,弁護士に相談し,抵当権の抹消を求める示談交渉や民事訴訟の提起(債務不存在確認,抵当権抹消手続請求訴訟)を依頼することを考えてみてください。

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