新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース <参照条文> 東京都迷惑防止条例
No.369、2006/3/13 14:53 https://www.shinginza.com/chikan.htm
[刑事・起訴前]
質問:先日、私の弟が電車の中で女子高生に強制わいせつをしたということで逮捕されてしまいました。弟は1年前にも東京都の迷惑防止条例違反行為を働いたということで罰金刑に処されています。今回、強制わいせつをしてしまったこと自体は間違いないようで、弟も警察に対して素直に事実を話しているとのことです。弟は今後どのようになってしまうのでしょうか。
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回答:
強制わいせつ罪(刑法176条)は親告罪(刑法180条1項)ですので、被害者の方が告訴を取り下げれば起訴されることはありません。一方で、告訴が取り下げられなかった場合には、裁判を受けることになり、事実を争わないのであれば当然、有罪ということになりますが、前刑からわずかな期間で同種事犯を繰り返していることからすると、実刑になる可能性も非常に高いと考えられます。
解説
1、強制わいせつ罪は暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をするという犯罪であり、「わいせつ」とは判例によれば@いたずらに性欲を刺激又は興奮せしめ、A普通人の正常な性的羞恥心を害し、B善良な性的道義観念に反するもの、を言うとされています。一方で、迷惑行為防止条例(東京都迷惑行為防止条例第5条)において「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」をすることが禁止されています(自治体によって内容が異なりますので、ご注意下さい)。本件のような、電車の中で他人の身体に触れる犯罪行為、いわゆる「痴漢行為」について見てみると、上記2つの条文いずれにも該当するように思えます。そこでまず上記「痴漢行為」と絡めて、強制わいせつと迷惑行為防止条例違反行為との差異について考えてみます。強制わいせつは、上述のように暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をするという犯罪類型ですが、強制わいせつ罪に該当する「わいせつな行為」とは、具体的には陰部に手を触れる、あるいは手指で弄ぶ、自己の陰部を押し当てる、女性の乳房を弄ぶ、などの行為をいうとされています。衣服の上から触れたというだけでは原則として強制わいせつ罪に言うところの「わいせつな行為」には該当しないとされていますが、衣服が薄手であってその行為が「弄んだ」と評価するに足るようなものであった場合、あるいは衣服が厚手であっても強い行為態様であって上記と同様に評価することができるような場合にはここにいう「わいせつな行為」と判断されることもあります。強制わいせつ罪に規定されているところの「わいせつな行為」は以上のようなものを言いますが、一般に、強制わいせつ罪に至らない程度の行為が(衣服の上から軽く触れるなど、「弄ぶ」と評価するには至らないようなもの)、迷惑行為防止条例第5条に該当する行為であるとされています。多少語弊があるかもしれませんが、分かりやすくいうならば、いわゆる「痴漢行為」のうち、行為態様が悪質なものが強制わいせつであり、強制わいせつには至らない程度のものが迷惑行為防止条例違反行為、ということになります。そして、両者の分水嶺として重視されるのが「衣服の上から触っていたのか、それとも衣服(下着)の中に手を入れ、直接触れていたのか。」という点であると、一般には考えてよいと思われます(もっとも、上記のように衣服の上から触った場合でも強制わいせつに該当することもありますので、絶対的な判断基準ではありません)。以上の解説はあくまで上記「痴漢行為」を想定して説明したものであり、「強制わいせつ罪が成立するかどうか問題となるあらゆる場面において、強制わいせつ罪に至らない程度の行為であると考えられる場合に、必ず迷惑行為防止条例違反行為に該当する」わけではありませんので、その点は十分ご注意下さい。
2、本題に戻りますが、本件で弟さんが強制わいせつ罪に該当する行為をしてしまっていたとしても、強制わいせつ罪は親告罪(被害者の告訴がない限り裁判をすることができない犯罪類型)ですので、被害者の方に謝罪し、告訴を取り下げてもらうことができれば、強制わいせつ罪として起訴されることはありません。したがって、逮捕後、起訴前にやるべき最も重要なことは、被害者の方に謝罪をし、和解をさせていただき、告訴を取り下げてもらうことです。
3、次に、起訴をされてしまった場合についてですが、この場合にもやはり被害者の方と和解のお話し合いを継続していくことが、極めて重要であるといえます。なぜなら、裁判所が量刑を判断する上で、被害者の感情(被害感情)及び被害回復の程度について、当然に考慮するからです。本件について、被害者の方が弟さん並びに親族の方々の謝罪の気持ちを理解してくれて、和解に応じてくださるのであればもちろんそれに越したことはありませんが、それができなかった場合にも、和解金を供託するなどして、できる限り被害回復を図るよう努力しなくてはなりません。
4、最後に量刑についてですが、本件の如く直近に同種事犯を起こしているような場合には、実刑になる可能性が非常に高いといえます。もっとも、被害者の方と和解ができ、被害感情が必ずしも強くなく、被害回復も図られており、本人も十分に反省しているということであれば、場合によっては執行猶予を付してくれる可能性もあります。とはいえ、前述のように起訴前に和解をすることができ、告訴を取り下げてもらうことができれば裁判を受けることもなくなりますので、このような事案については、起訴前にどれだけ動けるかがポイントになるといえるでしょう。
刑法(強制わいせつ) 第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
(罰則)
第八条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第五条の二第一項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。