同性パートナーの不貞行為と慰謝料請求
民事|同性不貞行為による同性パートナーとの関係解消による第三者への慰謝料請求|宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決|判時2473号51頁|最判平成31年2月19日・判タ1461号28頁
目次
質問:
私は、男性の同性愛者であり、6年前から一緒に暮らしてきた同性パートナー(男性)がいます。自治体のパートナーシップ宣誓制度に登録し、互いの両親にも挨拶を済ませるなど、内縁関係と呼べる実態がありました。
ところが先日、パートナーが、半年程前より別の男性と定期的に肉体関係を持っていたことが分かり、とてもショックを受けています。
このような事態に陥った以上、私としては、パートナーと関係を解消した上で、慰謝料を請求したいのですが、請求が認められる余地はあるのでしょうか。
パートナーと関係を持った男性にも慰謝料を請求できるでしょうか。
回答:
1 近時の裁判例で、「同性のカップルであっても、その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては、それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ、不法行為法上の保護を受け得る」ことを判示したものがあります(宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決・判時2473号51頁)。
あなたとパートナーの方との生活関係が、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価されるのであれば、不貞行為を理由とした慰謝料請求が認められる余地があります。
なお、上記裁判例の事案では、不貞慰謝料の請求ではなく、同性婚の破綻に係る慰謝料を請求しているという特殊性があります。パートナーとの関係では、内縁関係の破綻を理由に責任のある相手方に損害賠償請求が認められましたが、不貞の相手方となった第三者との関係では請求が排斥されております。
内縁の相手に対する不貞を理由とする慰謝料請求は、①不貞行為それ自体による精神的苦痛に対する慰謝料(不貞慰謝料)と、②不貞行為を原因とする離婚という結果から生ずる精神的苦痛に対する慰謝料(離婚慰謝料)の2つがあると解されており、②離婚慰謝料については、近時の最高裁判例(最判平成31年2月19日・判タ1461号28頁)が「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」と判示したことで、極めて限定された場合にしか認められないことが明らかとなりました(配偶者への請求は別)。この判決は男女間の婚姻関係が不貞行為により破綻離婚となった場合ですが、このことは同性間の内縁関係の破綻についても同様といえます。
同性パートナーの不貞相手に対して、不貞慰謝料の請求を超えて、同性婚の破綻に係る慰謝料を請求するためには、平成31年判決にいう特段の事情の立証が必要となり、立証のハードルが高いことには留意しておく必要があります。
また、不貞行為自体についての慰謝料請求が認められるか、という問題も残りますが、同性婚の場合も互いに貞操義務を負うかという疑問もありますが男女の同棲と同様に扱うということからすれば互いに貞操義務を負っていると解することになるでしょう。なお、宇都宮地裁の判決では原告が主に離婚慰謝料の請求をしていたため、不貞慰謝料が認められるか否かについては詳しい説明がありませんが、貞操義務はあるとしても当事者間の義務であるとして離婚慰謝料と同様に特段の事情がないとして否定しています。
2 同性における同居の場合、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価されるための具体的な判断要素(間接事実)やそのハードルの高さについては、新しい問題であるが故に、裁判例の蓄積が乏しい状態であり、現時点では、上記裁判例の事実認定を参考にする他ありません。
該当の裁判例は、女性同士のカップルの事案ですが、①比較的長い期間の共同生活の事実(約7年間)、②同性婚が法律上認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得した上、日本国内での結婚式・披露宴も行い、その関係を周囲の親しい人に明らかにしている(いわゆるカミングアウト)事実、③お互いを将来的なパートナーとする意思が汲み取れる言動(一緒に住むためのマンションの購入を進めていた事実、二人の間で育てる子を妊娠すべく、第三者からの精子提供を受けた事実)などを考慮し、「日本では法律上の婚姻が認められていないために正式な婚姻届の提出をすることはできず、生殖上の理由から二人双方と血のつながった子をもうけることはできないという限界はあるものの、それ以外の面では、男女間の婚姻と何ら変わらない実態を有しているということができ、内縁関係と同視できる生活関係にあったと認めることができる」と結論付けています。
3 本件では、6年間という比較的長い期間の共同生活の事実に加え、自治体のパートナーシップ宣誓制度の利用により対外的に同性の夫婦としての実態を示してきた事実は、プラスの事情となるでしょう。「内縁関係と同視できる生活関係」が認められる余地はあると思われますので、お近くの法律事務所にご相談されることを推奨いたします。
4 関連事例集1975番参照。同性内縁に関する関連事例集参照。
解説:
第1 同性婚の可否とパートナーシップ宣誓制度の利用について
1 日本における同性婚の取扱い
諸外国に目を向けると、同性婚を可能とするための法制度が整っている国もありますが、日本は、未だ、同性婚を法的な制度として認めるには至っておりません。
とはいえ、国際的には、同性婚を受け容れることがいわば当然の流れになっており、そのような立法事実から、同性婚を認めていない現行の民法や戸籍法の諸規定が違憲(状態)であることを宣言した裁判例も出てきております(名古屋地判令和5年5月30日など)。
このような流れを受け、同性婚を可能とする法整備が喫緊の課題とされ、今後の法整備が期待されますが、残念ながら現時点では制度上の限界があって、同性婚は認められていません。
2 自治体のパートナーシップ宣誓制度の利用
この点、婚姻の届出ができずに生きづらさを抱えている性的少数者を対象として、多くの地方自治体がパートナーシップ宣誓制度を導入しており、同性婚の制度が整備されるまでは、このパートナーシップ制度を利用して、対外的に夫婦としての実態を示すことが考えられます。パートナーシップ宣誓制度は、お互いを人生のパートナーとして、相互に協力し合う関係であることを宣誓した、性的少数者の方に対し、各自治体がその関係を認めて証明書を発行する制度で、2015年か11月に渋谷区と世田谷区で導入されて以降、300以上の自治体で採用されています。
注意点としては、戸籍上の夫婦関係やこれに類する内縁関係は、あくまでも現行法のもとでは男女間を前提とした概念であり、パートナーシップを結んだからと言って、法律上の夫婦と同様の権利義務(相続権など)が発生することにはならない点が挙げられます。もっとも、日常生活を送る上での利便性(家族として公営住宅での同居が認められる、入院先の病院で家族としての面会が許可される、同居の家族として保険金の受取りが可能な場合がある等)が向上することに加え、家族としての結び付きを実感できるメリットがあり、将来的に同性婚を希望する者としては、その前段階として、パートナーシップ宣誓制度を利用することは有意義と考えられます。
なお、体の性と心の性が一致しないトランスジェンダーの方の救済として、2003年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立し、その翌年から施行されていますが、性別取扱い変更の審判を受けるためには性別適合手術を受けなければならないなど、制度利用のハードルが高いことが問題とされております。このことから、トランスジェンダーの方も、ハードルの低いパートナーシップ宣誓制度を利用する例があり、その意味でも、同制度の果たす役割は大きいと考えられます。
第2 同性カップルの一方当事者による不貞行為と損害賠償請求の可否
1 不貞行為を理由とする慰謝料請求(婚姻関係のある男女を前提)
不貞相手に対する慰謝料請求は、①不貞行為それ自体による精神的苦痛に対する慰謝料(不貞慰謝料)と、②不貞行為を原因とする離婚という結果から生ずる精神的苦痛に対する慰謝料(離婚慰謝料)の2つがあると解されております。
このうち、②離婚慰謝料については、近時の最高裁判例(最判平成31年2月19日・判タ1461号28頁)が「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚 姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」と判示したことで、極めて限定された場合にしか認められないことが明らかとなりました(配偶者への請求は別)。
なお、不貞行為が行われた時点で、既に婚姻共同生活が行われておらず、実質的に婚姻関係が破綻していると認められる場合には、既に法的に保護される権利利益は存在していないため、不貞の相手方に婚姻関係破綻後の不貞行為に基づく法的な責任は発生せず、慰謝料を請求することはできないとされています(最判平成8年3月26日・民集50巻4号993頁参照)。
2 同性カップルの一方当事者による不貞行為と慰謝料請求の可否
上記は、法律上の婚姻関係があることを前提とした議論です。それでは、同性カップルの一方当事者が第三者と肉体関係を持った場合において、同様に慰謝料請求が認められる余地はあるのでしょうか。
この点、近時の裁判例において、「同性のカップルであっても、その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては、それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ、不法行為法上の保護を受け得る」ことを判示したものがあり(宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決・判時2473号51頁))、同裁判例は、最高裁の上告不受理決定で確定しております(最決令和3年3月17日)。
同裁判例は、「現在の我が国においては、法律上男女間での婚姻しか認められていないことから、これまでの判例・学説上も、内縁関係は当然に男女間を前提とするものと解されてきたところである。」との前提を述べた上で、ⅰ)近時、価値観や生活形態が多様化し、婚姻を男女間に限る必然性があるとは断じ難い状況となっていること、ⅱ)世界的に見ても、同性のカップル間の婚姻を法律上も認める制度を採用する国が存在すること、ⅲ)法律上の婚姻までは認めないとしても、同性のカップル間の関係を公的に認証する制度を採用する国もかなりの数に上っており、日本国内においてもこのような制度を採用する地方自治体が現れてきていること等に着目し、かかる社会情勢を踏まえると、同性のカップルであっても、その実態に応じて、一定の法的保護を与える必要性は高いと結論付けています。
この裁判例によれば、あなたとパートナーの方との生活関係が、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価されるのであれば、不貞行為を理由とした慰謝料請求が認められる余地があることになります。
なお、この裁判例の事案では、不貞慰謝料の請求ではなく、同性婚の破綻に係る慰謝料を請求しているという特殊性があります。同性パートナーの不貞相手に対して、不貞慰謝料(不貞行為があったことだけを理由とする慰謝料)の請求を超えて、同性婚の破綻に係る慰謝料(不貞行為により婚姻が破綻したことまでを含む慰謝料)を請求するためには、平成31年判決にいう特段の事情の立証が必要となり、立証のハードルが高いことには留意しておく必要があります(実際、裁判例では特段の事情が立証できず、不貞相手への請求は排斥されています。)。
また、同裁判例では、「日本の法律上認められている男女間の婚姻やこれに準ずる内縁関係とは異なり、現在の法律上では認められていない同性婚の関係であることからすると、少なくとも現時点では、その関係に基づき原告に認められる法的保護に値する利益の程度は、法律婚や内縁関係において認められるのとはおのずから差異がある」と指摘した上で、慰謝料の金額を100万円としています。このように、認められる慰謝料の金額水準が、若干低いことについても留意が必要です(不貞慰謝料を請求する場合は、100万円を割り込むことが想定されます)。
3 「内縁関係と同視できる生活関係」の立証について
⑴ 判断要素について
上記のとおり、あなたとパートナーの方との生活関係が、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価されるのであれば、不貞行為を理由とした慰謝料請求が認められる余地があることになります。
ただ、その具体的な判断要素(間接事実)やそのハードルの高さについては、新しい問題であるが故に、裁判例の蓄積が乏しい状態であり、現時点では、上記参考裁判例①の事実認定を参考にする他ありません。
該当の裁判例は、女性同士のカップルの事案ですが、ⅰ)比較的長い期間の共同生活の事実(約7年間)、ⅱ)同性婚が法律上認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得した上、日本国内での結婚式・披露宴も行い、その関係を周囲の親しい人に明らかにしている(いわゆるカミングアウト)事実、ⅲ)お互いを将来的なパートナーとする意思が汲み取れる言動(一緒に住むためのマンションの購入を進めていた事実、二人の間で育てる子を妊娠すべく、第三者からの精子提供を受けた事実)などを考慮し、「日本では法律上の婚姻が認められていないために正式な婚姻届の提出をすることはできず、生殖上の理由から二人双方と血のつながった子をもうけることはできないという限界はあるものの、それ以外の面では、男女間の婚姻と何ら変わらない実態を有しているということができ、内縁関係と同視できる生活関係にあったと認めることができる」と結論付けています。
⑵ 本件の検討
あなたは、パートナーの方と6年程度共同生活を送っており、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価する上でプラスの事情となるでしょう。
また、自治体のパートナーシップ宣誓制度を利用し、対外的に同性の夫婦としての実態を示してきた点も、プラスの事情となるでしょう。なお、参考裁判例①の事案では、同性婚が法律上認められている米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得した上、日本国内での結婚式・披露宴も行うなど、男女間の婚姻に可能な限り近付けるための努力が見受けられますが、ここまでの行動をしなければ「内縁関係と同視できる生活関係」と評価されないというのは現実的でないと思われます。
その他、お互いを将来的なパートナーとする意思が汲み取れる言動を矛盾なく説明できれば、「内縁関係と同視できる生活関係」と評価される余地は十分にあると思われます。
第3 終わりに
以上のとおり、同性パートナーの不貞行為を理由とする慰謝料請求に関しては、「内縁関係と同視できる生活関係」が認められるか否かという点がポイントとなりますが、その認定についての裁判例の蓄積が乏しいため、立証の見通しについて、弁護士に相談されることを推奨いたします。
以上