新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.375、2006/3/14 13:41

[商事]
質問:会社法362条4項6号(内部統制システム,コンプライアンスシステム)について教えてください。当社が該当する場合,どのように構築したらよいでしょうか。

回答:
1、≪内部統制システムとは≫会社法は,取締役会の専権事項として,取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するものなど株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制(内部統制システム)の構築を掲げています(362条4項6号)。そして,その内容は,会社法施行規則に規定されています(100条)。
【会社法362条4項柱書】取締役会は,次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
【同項6号】取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
【会社法施行規則100条1項柱書】362条第4項第6号に規定する法務省令で定める体制は,次に掲げる体制とする。
【同項1号】取締役の職務執行にかかる情報の保存及び管理に関する体制
【同項2号】損失の危険の管理に関する規定その他の体制
【同項3号】取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
【同項4号】使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
【同項5号】当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
【同条2項】監査役設置会社以外の株式会社である場合には,前項に規定する体制には,取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
【同条3項柱書】監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には,第1項に規定する体制には,次に掲げる体制を含むものとする。
【同項1号】監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
【同項2号】前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項
【同項3号】取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他監査役への報告に関する体制
【同項4号】その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
2、≪内部統制システム構築の義務付け≫会社法はすべての大会社に対し,内部統制システム構築の基本方針を決定することを義務付けています(会社法362条5項)。会社法上の大会社とは,資本金が5億円以上か,負債が200億円以上の会社です(同法2条6号)。このような義務付けがされた趣旨を簡単に説明すると,概ね次のとおりです。
■大規模な会社は,その社会的影響力から企業統治の適正確保が特に重要。
■反面,大規模ゆえに各取締役が会社のすべての活動を個別に管理監督することは困難。
■そこで,そのような場合でも企業統治の適正確保ができる「仕組み」を作るべし。
【会社法362条5項】大会社である取締役会設置会社においては,取締役会は,前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。
3、≪大会社に該当する場合≫大会社の取締役会は,会社法の施行日以後最初に開催される取締役会の終結時までに内部統制システム構築の基本方針を決定する必要があります(経過措置を定める政令14条)。
4、≪大会社に該当しない場合≫大会社に該当しない会社は,内部統制システムを構築しなくても会社法362条5項の条文そのものには違反しないことになります。しかし,そのような会社でも内部統制システムを構築する必要がある場合があります。前述したとおり,内部統制システム構築が義務付けされた趣旨は,各取締役が会社のすべての活動を個別に管理監督できないときは,それができなくても企業統治の適正確保ができるような仕組みを作るべきであるという点にあります。そうすると,たとえ大会社でなくても,各取締役が会社のすべての活動を個別に管理監督できないにもかかわらず,その代わりとなるべきシステムを作らなかったときに,もし,従業員の法令・定款違反行為などの企業不祥事があった場合,取締役は,そのようなシステムを作らなかった点について善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。言い換えれば,従業員の法令・定款違反により取締役の責任が問われたとき,「取締役は各従業員の行動まですべて管理監督することはできないから,取締役に責任はない。」という言い訳が立たないということです。したがって,もし,取締役が各従業員の行動まですべて管理監督することができないなら,内部統制システムを構築する必要があるのです。内部統制システムの基本方針は,取締役会のある会社では取締役会で,取締役会はないが取締役が複数いる会社では取締役の過半数で決定してください。
5、≪どのように内部統制システムを構築すべきか≫会社法362条5項は,「取締役会で決定すること」だけを義務付けていますので,決定さえすれば,たとえそれが不適当な決定であっても同条項との関係では法令違反になりません。しかし,企業不祥事が発生したとき,取締役会が不適当な決定をしていたことについて善管注意義務違反の責任を問われてしまうでしょう。そこで,「実際に機能する内部統制システム」を構築する必要がありますが,取締役会はそれをどこまで決定すべきかが問題となります。まず,条文の「体制の整備」という文言からして,必ずしも「設備管理課のA課長が部下3名を連れて毎日夕方5時に工場内を指差し確認すること」とか「毎年2月及び3月は,B,C及びDを監査業務の補助にあたらせること」など,微細にわたる決定までは求められていないものと考えられます。取締役会では,当該システムを構築することにより達成しようとする目的ないし目標,上記目標を達成するうえで必要な内部組織及びその権限,各内部組織同士の連絡及び協力の方法,発生しそうなあるいは発生してしまった問題への対処方法などについて骨太の方針を決めなければならず,これを各取締役に委任することはできませんが,その骨太の方針に基づく具体的な人員配置や運用規則については,各担当取締役以下に段階的に委ねていくことでも足りるのではないでしょうか。ただし,取締役会レベル以下での決定事項であっても,そのシステムが実際に機能しているかについて検証するシステムを構築し,そのシステムを通じるなどして内部統制システム自体を検証・是正していく義務は依然として取締役会にあると考えられますのでご注意ください。「では,どのような条項を用いてシステムを作ればいいのか」という点が最大のご関心事でしょうが,これは会社の規模,事業,あるいは風土などによって異なり,まさに経営判断にゆだねられる部分ですから,ひとつの答えに収束されるものではありません。以上の点をご留意いただいたうえ貴社に最適なシステムをご検討ください。
6、≪弁護士の利用≫弁護士は,必ずしも会社経営に通じているわけではございません(中には経営コンサルタントのような弁護士や法律事務所も存在するでしょうが。)ので,内部統制システム案を貴社に代わって一から構築することはできません。しかし,内部統制システムの構築過程において,もしくは決定済みの内部統制システムについて法的な観点からのご助言を差し上げたり,または顧問契約を締結するなどして継続的にご相談をお受けしたりすることが可能です。会社法制の変化に伴い,法律面でのリスクヘッジをお考えの場合は,一度法律事務所にご相談されるとよいでしょう。

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