新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.380、2006/4/3 17:56 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm
[民事・証拠]
質問:私は、友達であるAさんに懇願され、明後日、担保や保証人をつけずに500万円を貸してあげることになっています。Aさんは、お金を受け取った際に「誠意をもって返済していきます。」という念書を書くと言っていますが、念書というものは法的に有効なのでしょうか。また、きちんとお金を返してもらうための最善の策としては、どのようなものがあるのでしょうか。
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回答:
表題が「念書」となっていても、その実質は「契約書」であると判断されるものもありますので、一概に表題が念書だからどうということはできません。そもそも、書証については偽造されたものでもない限り、基本的に効力がない、ということはありません。よく、念書や借用書について「有効か、無効か。」といった質問をされる方がいらっしゃいますが、一般に書証については有効・無効という概念はなく、あくまで裁判になった場合に証拠としての価値がどの程度あるか、という問題が生じるに過ぎません。最善の策については、額が額ですし、公正証書を作成するのがよいのではないかと思います。
解説
1、証拠の効力・・刑事裁判においては、条文上、証拠能力のある証拠(適法な手段で収集された証拠)しか裁判には提出することができないとされており、民事裁判においても一応、この考えは妥当すると考えられています。その意味では証拠について「有効」「無効」という概念が生じる余地はありますが、当事者がその意思に基づいて作った書面については、その形式・内容がどのようなものであろうと、無効(裁判に提出することができない)であるとされることはありません。
2、証拠としての価値・・もっとも、証拠として無効ではないと言っても、裁判をする上で、価値のある証拠であるかどうかは別問題です。書証については「書証が真正に成立しているのかどうか(当事者の意思に基づいて当該書証が作成されたのかどうか)。」、「真正に成立した書証であるとして、要証事実(証明しようとしている事実)との関係で、当該書証がどれだけの価値(証明する能力)をもっているのか。」が問題となります。この点、書証に当事者(ないしその代理人)の署名・押印がある場合には、当該書証が当事者の意思に基づいて作成されたものであると推定されますので、署名・押印のある書証がある場合には、作成の真正を争う側が、真正に作成されていないことを主張・立証しなくてはならなくなります。書証が真正に成立したものであったと判断されたとしても、内容それ自体が抽象的である、あるいは重要な部分が抜けているようなものであれば、要証事実に対する証明力としては弱いものにならざるを得ず、結局、自分の主張が認められなくなる(あるいは一部だけしか認められなくなる)ということにもなりかねません。
3、以上の説明からもお分かりになると思いますが、書面を作成する場合には、署名・押印が必要であるのはもちろんのこと、要証事実(こちらで立証しようとする事実、立証すべき事実)を全てカバーできるような記載をしておく必要があります。本件のような貸金契約(金銭消費貸借契約)を締結する場合であれば、「確かにお金を借りました。」などという抽象的な記載の念書を作成するのでは全く足りず、@いつ、A誰が、誰に対して、Bいくらを貸し付け、C返済日はいつなのか(分割払いの場合にはそれぞれの弁済期・弁済方法について)、という点について確実に記載した上、両者が署名・押印をした契約書を作成すべきであるといえます。
4、公正証書の作成・・このような書面をしっかりと作成しておけば、弁済期になっても相手が返済しないという場合には、裁判を提起し、証拠としてこの契約書を提出することができます。もっとも、裁判をするにも費用がかかりますし、手続に時間もかかります。そこで、より簡便な方法として考えられるのが、公正証書の作成です。公正証書とは、公証役場において公証人に書面を作成してもらうというシステムで、本件のような金銭消費貸借に関する契約書を公正証書として作成しておき、契約条項の中に「執行認諾文言」とよばれる条項を盛り込んでおけば、債務の支払いが滞り、任意の話し合いによっては支払いが望めないような場合には、裁判の手続きを経ずに、強制執行にかかることができます。また、公証人は法律の専門家ですので、当事者だけで作成する場合に起こりがちなケアレスミスなどを防ぐこともできます。ただし、公正証書を作成するには、契約当事者双方が公証役場におもむかなければならないため、相手方が出頭を拒む場合には作成をすることができません。もっとも、公正証書の作成を渋るような相手には、そもそも高額の金銭を貸すのは控えた方が無難であるといえるのかもしれません。