新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.383、2006/4/6 9:38

[刑事・起訴前]
質問:友人が、泥酔状態で追突事故を起こし、危険運転致死傷罪で逮捕されました。この犯罪と友人の弁護活動について教えてください。

回答:
1、危険運転致死傷害罪(刑法208条の2)とは、昨今の飲酒運転や重大なスピード違反等の危険で悪質な運転を防止するために、2001年12月25日に施行された法律です。これまで、泥酔により自家用車で交通事故により人を死傷させた場合は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)道路交通法の酒酔い運転(道交法65条)が適用され、刑法の5年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金の刑を基準に処罰されていました。しかし、正常な運転ができないことを知りながら場合によっては凶器となる可能性がある自動車を運転することは、単なる過失犯として処罰するのは刑の均衡からおかしいということで、たとえ過失による死傷事故場合でも厳罰に処することになったのです。
2、危険運転致死傷害罪は、犯罪者をより厳しく処罰することにより、悪質なドライバーを戒め、社会的責任があることを再認識させようとするものです。このような動きの背景には、現在、運転免許保有者数は約8000万人弱いますが、ドライバーによっては、場合により凶器に変貌する自動車であることを認識しながら乱暴な運転やマナー違反を繰り返し、その結果、他人を傷つけ、何物にも替えがたい尊い命を奪う危険行為を取り締まる必要性が存在するのです。本条文は、罰金の規定はありません。致傷に対しては10年以下の懲役に処し、人を死亡させた場合においては、1年以上の有期懲役(加重により最高20年)が科せられます。
3、従来の業務上過失致死傷罪と比べると、本条文では、非常に厳しい刑罰が科せられることになったため、致死の事案については、執行猶予判決の可能性は低く実刑を覚悟する必要があります。懲役20年の最高刑の判決がでた事例とし、飲酒運転の上学生の列に突っ込み、死傷させた事件(仙台地判H18.1.23)があります。逆に、執行猶予判決がついた事例としては、アルコールを飲んで前方停車中の車に追突し、同車両の運転手に傷害を負わせた事例(新潟地判H15.1.31)で、懲役2年執行猶予3年の判決があります。
4、本件の弁護活動については、逮捕されていれば被告人に成り代わり、弁護人は速やかに被害者に謝罪しなければなりません。誰も人を死傷つけようとして、危険な運転をしたのではなく、危険が隣り合わせであるという認識の低さから招いてしまった行為でも、被告人の意識の低さから、大事な家族を傷つけられた被害者の気持ちを考慮する必要があります。弁護人としてできる活動の第一歩が、被害者への謝罪です。更に、被告人だけでなく、被告人を育てた両親、被告人の家族全ての方が謝罪文のような形で謝罪の意思を伝えれば被害者の処罰感情も和らぐ可能性があります。
5、その他、被害者に対し、お見舞金、治療費、慰謝料などの支払を提示することになります。結果的に、金銭によって謝罪の意思を表すことになりますが、法治国家では私的報復は許されず全てが金銭賠償(民法417条、722条)の形で被害者の損害回復を認めていることから、弁護人としても道徳的謝罪の他に金銭賠償を中心に被害者との話し合いにより罪を償う形になります。その他詳しいことはお近くの法律事務所にお問い合わせください。

≪参考条文≫

刑法(危険運転致死傷)第208条の2 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

(業務上過失致死傷等)第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2 自動車を運転して前項前段の罪を犯した者は、傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

道路交通法(酒気帯び運転等の禁止)第六十五条 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
2 何人も、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
(罰則 第一項については第百十七条の二第一号、第百十七条の四第二号)

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