新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.386、2006/4/10 15:31

[刑事・起訴前]
質問:交際してまもない彼女と口喧嘩をしたので、つい彼女の部屋にあった数万円の現金入りブランドの鞄を持ち出してしまいました。その後通報により突然警察に逮捕され勾留されてしまったのですが、このようなことは初めてです。私は今後どうなるでしょうか。

回答:
1、他人の鞄を無断で物を持ち出すと窃盗罪(刑法235条)が成立します。窃盗罪とは、不法領得の意思を持ち他人の財物の占有を侵し自己の占有に移した者を処罰する犯罪で十年以下の懲役に処すると規定されています(刑法235条)。罰金の規定はありませんので、いわゆる略式手続き請求(刑事訴訟法461条)により簡単な裁判手続きで10数日後に罰金を支払い釈放されるということはありません。起訴され裁判になれば懲役刑の有罪判決が出るでしょう。窃盗はこの様に重大な犯罪なのです。しかし、今回の被害者は交際していた彼女ですから、その彼を逮捕し10日間も勾留するというのも何となく捜査機関も大人気ないような気がします。これが、夫婦、親子、親族間なら親族相盗例(刑法244条、刑の免除)により逮捕はなかったと思います。通常なら彼女もあなたに連絡し鞄を返すように話し合い、どうしても埒が明かないようであれば警察に助けてもらうことは考えられるのですが、突然逮捕そして勾留と言うのであればそれなりの事情があるように思われます。まず、交際して間もないと言うことですので、彼女としてもまだあなたをほとんど信用していない関係であり、警察も他人に近い関係と彼女の申し出により判断したのでしょう。知り合い交際した経緯はよく分かりませんが、例えば、インターネットや、偶然に街角で知り合い彼女の家に遊びに行ったような場合は他人の関係に近いと判断される場合もあります。それに現金と高価なバックが被害品ですから被害額が大きいとの考慮も働いたのかもしれません。ともあれ、逮捕勾留されているのですから、このままですと勾留満期(検察官が裁判所に勾留請求をした日から数えて10日目が勾留満期と言います。裁判所の勾留決定の日から数えるのではありません。)が来たときに起訴すなわち公判請求、裁判になってしまう可能性が十分にあります。そこであなたの今後とるべき方法を考えて見ましょう。
2、日本の法律では悪いことをした人は全て裁判にかけて処罰すると言う政策を採っていません。検察官は刑事裁判をするに値する人だけを起訴し公開の法廷で裁きにかけるという方法がとられています。これを起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)といいます。起訴法定主義に対立する概念です。起訴するかどうかは反省の態度、被害額、被害感情、今までの犯罪経歴、再犯を防ぐため監督者の存在等を総合的に検討して検察官が決定しますから、以下のような対応が必要と思われます。
@まず、あなたは被害者に心から謝罪する必要があります。悪いことをしたら謝ることは小学生でも分かることです。警察署に留置されていても親族、弁護人に謝罪文を託し被害者に渡してもらう方法があります。法は、犯罪者を作ることが目的ではなく、一刻も早い社会復帰をも求めています。そのためには自らの犯行を悔い改め謝罪することがまず求められます。反省、謝罪なくして社会復帰はありえません。
A次に窃盗では被害者がいますから被害者に被害の回復がなされたかどうかが大切です。まだ、被害金額、被害品を返還していないのであれば家族か弁護士に連絡し一刻も早く被害品を返還し填補しなければなりません。これは重要です。被害が回復されないのであれば、その代償としてあなたを処罰し罪を償わせなければ社会の平穏は保たれないからです。被害者、関係者としても被害が回復されない限り怒りは収まりません。
Bさらには、被害の回復だけでなく、すすんで元の彼女であっても二度と被害者である彼女には嫌がらせ等迷惑をかけないという今後の被害者側の生活の平穏を犯さないと言う誓約書も用意し安心させれば検察官の心証もよくなるでしょう。
C被疑者の意思すなわち、被害者の被害感情の面から言うと被害者にあなたを許してもらうことが必要です。刑罰は、被害者に代わり国家が犯罪者を処罰する面もありますから、被害感情は検察官の重要な判断材料です。弁護士に依頼し被害者が被疑者を許してあげるという書面を作成してもらい被害者に署名してもらうような手続きになるでしょう。今回の場合、被害者はお付き合いしていた彼女ですから難しくないかもしれませんが愛用のバック、現金が被害品ですから安心は出来ないかもしれません。
D犯行態様ですが、今回の場合住居侵入の容疑はないようですから、彼女の家に行った時の犯行と考えられ違法性はやや軽いと言えるしようし、口喧嘩が原因ですから犯行の計画性もないこと、前科がなく再犯の可能性が少ないこと等弁護士を通じて検察官に説明し分かってもらうことも必要でしょう。
Eさらに、ご家族の身元引き受け書も釈放には必要になってきます。
3、以上の事項について弁護人と協議し、一刻も早く被害者との謝罪、和解、示談を行い、それぞれの書面を作成して検察官に提出、交渉し起訴を断念するように、そして早期に釈放を実現したいものです。努力の甲斐なく万が一起訴された場合は再度弁護人と保釈等の打ち合わせが早急に必要となります。
4、なお、逮捕されたのであれば、とりあえず弁護士に相談し、協議してください。逮捕された場合、刑事訴訟法上逮捕後48時間以内に検察庁に送検され(同法203条)、24時間以内に勾留請求(同法205条)、勾留質問が裁判所で行われ(同法207条、60条、61条)、10日間の勾留が決定される(同法208条)のが通常です。時間がありませんので、まずは、お近くの法律事務所に行ってみましょう。

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