刑事事件を家族に知られないようにするために
刑事|捜査機関との協議と弁護人の役割
目次
質問:
先日、都内の某路線で、満員電車に乗っている際、私の目の前に立っている女性が露出の激しい洋服だったため、劣情を催してしまい、スカートの上からお尻を触るという痴漢行為に及んでしまいました。その後直ぐに、近くに立っていたサラリーマン風の男性に私の痴漢行為が見つかり、「何をやっているんだ!」と咎められたのですが、私は、怖くなって、次の駅に着いた瞬間、電車から飛び出し、逃走してしまいました。すると、後日、警察が自宅にやってきて、そのまま警察署に連行されることになりました。警察署では、取調べを受け、自身の犯行を素直に認めた上、友人に身元引受人になってもらったところ、何とか家に帰してもらうことができました。
勿論、被害者の方には、金銭の支払いを含め、誠心誠意、謝罪を尽くしたいと考えているのですが、今回の件を何とか穏便に済ませる方法はないのでしょうか。警察署に連行された日は、妻がたまたま実家に帰っていて、私の事件が妻に発覚することはなかったのですが、今後、警察署等への出頭要請があると、私の事件が妻に発覚して、離婚にまで発展してしまうのではないか、と心配に思っています。
回答:
1 刑事事件を穏便に済ませる方法と、家族に内緒にしておく方法ということですが、前者については被害者との示談、後者については弁護人を選任して警察からの捜査や処分についての連絡はまず、弁護人にすることを連絡しておくことが考えられます。
2 痴漢行為については、東京都では、「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下「東京都迷惑防止条例」といいます。)5条1項1号)に該当するものとして、刑事罰の対象とされています。
今回が初犯であれば、略式裁判によって20万円~30万円程度の罰金処分を科されることが見込まれますが、罰金処分といっても、前科が付いてしまうことに変わりはありません。これを回避したいのであれば、弁護人を選任するなどして、被害者の方と示談をして、宥恕(許し)を得る必要があります。
検察官が起訴にするか、不起訴にするかを決めるに当たっては、被害者の方の処罰感情が最重要視されますので、被害者の方と示談をして、宥恕(許し)を得ることができれば、不起訴処分(不処分)になるのが通常です。
3 相談者様の事件が奥様に発覚する契機としては、①警察官や検察官からの呼出状が相談者様の自宅に郵送されてしまうことと、②略式命令書の謄本や罰金の納付書が裁判所や検察庁から相談者様の自宅に郵送されることの2つが想定されます。
①の契機については、弁護人を選任するなどして、予め、担当の警察官や検察官に対し、相談者様の携帯電話に連絡する(若しくは、弁護人に電話で連絡する)よう、要請しておくことで、相談者様の事件が奥様に発覚することを防ぐことができます。
また、②の契機については、弁護人を選任するなどして、予め、担当の検察官に対し、在庁略式の方式(検察官が、ご本人を検察庁に在庁させたまま、略式起訴をして、即日、略式命令が発令された段階で、裁判所が、略式命令書の謄本を、裁判所に出頭したご本人に交付して、その後直ぐに、ご本人が検察庁において罰金を納付する、という方式。)によって略式起訴をするよう、要請しておくことで、相談者様の事件が奥様に発覚することを防ぐことができます。
4 以上に鑑みれば、相談者様の事件については、お近くの法律事務所でご相談の上、弁護人を選任して、しっかりと対応した方が宜しいでしょう。
5 起訴前弁護に関する関連事例集参照。
解説:
1 成立する犯罪と処分の見通し
痴漢行為については、各都道府県の条例によって規制されていますが、東京都では、「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下「東京都迷惑防止条例」といいます。)5条1項1号)に該当するものとして、刑事罰の対象とされています。
その法定刑(刑法等の刑罰法規の中で、各個の犯罪について規定されている刑。)としては、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(東京都迷惑防止条例8条1項2号)と定められていますが、今回が初犯であれば、略式裁判(検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)、100万円以下の罰金又は科料に相当する事件につき、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面によって審査する裁判手続。)によって20万円~30万円程度の罰金処分を科されることが見込まれます。
ただ、罰金処分といっても、前科が付いてしまうことに変わりはありません。これを回避したいのであれば、被害者の方と示談をして、宥恕(許し)を得る必要があります。東京都迷惑防止条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって都民生活の平穏を保持することを目的としており(同条例1条)、このような社会的法益を保護法益としていると考えられますが、実際上、検察官が起訴にするか、不起訴にするかを決めるに当たっては、被害者の方の処罰感情が最重要視されますので、被害者の方と示談をして、宥恕(許し)を得ることができれば、不起訴処分(不処分)になるのが通常です。
被害者の方と示談をして、宥恕(許し)を得るためには、当然のことながら、被害者の方と接触する必要がありますが、警察官や検察官は、加害者と被害者とが直接接触することを嫌うため、ご本人が被害者の方の連絡先を確認しようとしても、これに応じてくれないことが通常です。もっとも、弁護人であれば、弁護人限りという条件のもと、被害者の方の了承を得た上、被害者の方の連絡先を開示してくれます。
なお、痴漢行為が悪質な場合は不同意わいせつ罪として6月以上10年以下の懲役となる場合もあります。悪質か否かは行為の態様に沿って具体的に決められますが、一般的な電車内での痴漢のような場合は悪質とは言えないでしょう。
2 家族への発覚の回避
⑴ 警察署や検察庁への出頭要請
相談者様の事件は、まず、警察において捜査が行われて、その捜査が完了すると、検察官のもとに、捜査内容を記した書類が送られ(これをいわゆる書類送検といいます。)、その書類等に基づき、検察官が起訴にするか、不起訴にするかを決めることになります。
その手続きの中で、相談者様は、警察署や検察庁への出頭要請を受けて、警察官や検察官から取調べを受けることになりますが、その出頭要請の方法は、ご本人の携帯電話に連絡をしたり、ご本人の自宅に呼出状を郵送したりと、警察官や検察官によってまちまちです。
もし呼出状が相談者様の自宅に郵送されてしまえば、それを目にした奥様に相談者様の事件が発覚してしまうおそれがあることから、そのような事態を防ぐために、予め、担当の警察官や検察官に対し、自宅に呼出状を郵送するのではなく、ご自身の携帯電話に連絡するよう、要請しておく必要があります。
⑵ 略式命令書の謄本や罰金の納付書の送達
検察官による略式起訴を受け、裁判官は、罰金刑が相当であると判断した場合、具体的な罰金額の支払いを命じる略式命令を発令します。これに当たり、略式命令書の謄本や罰金の納付書が裁判所や検察庁からご本人の自宅に郵送されることになります。
もし略式命令書の謄本や罰金の納付書が相談者様の自宅に郵送されてしまえば、それを目にした奥様に相談者様の事件が発覚してしまうおそれがあることから、そのような事態を防ぐために、予め、担当の検察官に対し、在庁略式の方式(検察官が、ご本人を検察庁に在庁させたまま、略式起訴をして、即日、略式命令が発令された段階で、裁判所が、略式命令書の謄本を、裁判所に出頭したご本人に交付して、その後直ぐに、ご本人が検察庁において罰金を納付する、という方式。)によって略式起訴をするよう、要請しておく必要があります。この方式によれば、略式命令書の謄本や罰金の納付書が相談者様の自宅に郵送されることはありません。
⑶ 起訴状の謄本や召喚状の送達
上記のとおり、今回が初犯であれば、被害者の方と示談をしなかったとしても、略式裁判によって20万円~30万円程度の罰金処分を科されることが見込まれますが、念のため、検察官が公判請求(正式起訴)をした場合についても、解説させていただきます。
検察官が公判請求(正式起訴)をすると、裁判所において、公開の法廷での審理が開かれた上、判決が下されることになります。これをいわゆる刑事裁判といいます。これに当たり、起訴状の謄本や召喚状が裁判所からご本人の自宅に郵送されることになります。なお、判決書の謄本については、裁判所に請求しない限り、交付されることはありませんので、これがご本人の自宅に郵送される心配はありません。
もし起訴状の謄本や召喚状が相談者様の自宅に郵送されてしまえば、それを目にした奥様に相談者様の事件が発覚してしまうおそれがあることから、そのような事態を防ぐために、予め、担当の裁判所書記官に対し、ご自身で起訴状の謄本や召喚状を裁判所に取りに行くことを伝えておく必要があります。
3 最後に
以上のとおり、相談者様が不起訴処分(不処分)を獲得するためには、弁護人を選任するなどして、被害者の方と示談交渉を行う必要があります。また、相談者様の事件が奥様に発覚することを防ぐためには、弁護人を選任するなどして、予め、担当の警察官や検察官に対し、相談者様の携帯電話に連絡する(若しくは、弁護人に電話で連絡する)よう、要請しておくほか、もし被害者の方との示談が成立せず、略式裁判によって罰金処分が科されることになった場合には、予め、担当の検察官に対し、在庁略式の方式によって略式起訴をするよう、要請しておく必要があります。
これらの点に鑑みれば、相談者様の事件については、お近くの法律事務所でご相談の上、弁護人を選任して、しっかりと対応した方が宜しいでしょう。
以上