新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.394、2006/4/24 13:23

[民事・登記]
質問:不動産がA→B→Cへと順次売買され、現在、登記名義はAにありますが、既に所有者はCになっているので、A名義からB名義への所有権移転登記を省略して、直接A名義からC名義に移転登記することは可能ですか。

回答:
1.これは、いわゆる中間省略登記と言われる事例です。このような登記が認められれば,移転登記手続にかかる費用(登記手続報酬+登録免許税など)の節約になりますが、実体の権利関係を正確に公示する不動産登記制度の要請も無視することはできませんので、議論があるところです。
2.判例上は、原則として、Cによる中間省略登記手続請求が認められないとしつつも、ABの同意がある場合には別であるとして、厳格な要件のもとに許容しているものと解されています(最判昭40年9月21日)。また、既になされた中間省略登記の効力については、実体的権利関係に合致する限り、中間者の同意がなくても登記の対抗力は否定されず(最判昭44年5月2日)、また、中間者の同意がなくても、登記の抹消を求めるにつき正当な利益を有しないとき(代金を既に受領している場合等)は、登記の抹消請求は認められません(最判昭35年4月21日)。
3.登記手続上は、判決による登記申請の場合(AからCに直接移転登記を認容する判決がある場合)を除いては、中間省略登記を認めないとする法務局民事局長通達が存在し、中間省略登記であることが登記申請書及びその添付書類から登記官に判明すれば、当該登記申請は却下される扱いです。
4.しかしながら、従来の不動産登記法においては、登記申請にあたり、原則として『登記原因を証する書面』の添付を要求する規定は存在しましたが、当該書面を添付することができない場合には、『申請書副本』(申請書の写しであり、登記原因を記載したものではありません)を添付することで代替可能とされており、登記原因関係は、必ずしも登記官の審査対象にはなっていませんでした。そして、登記官には形式的審査権しか与えられておらず(現行法でも本人確認以外は形式的審査権のみ)、登記申請書及び添付書類に不備がない限り登記申請を却下できない扱いになっていますから、実際上、中間省略登記を排除することができませんでした。
5.以上を踏まえ、従来の実務では、関係者全員(AB)から書面による同意を得た上で、登記申請手続上は、CがAから直接買い受けた形式をとり、Bを登場させない中間省略登記が事実上行われて来ました。
6.しかしながら、改正不動産登記法により、平成17年3月7日以降の登記申請については、従来の『申請書副本』による申請を排除し、登記申請に際して『登記原因を証する情報』(以下『登記原因証明情報』という。)を法務局(登記所)に提供することが義務付けられ(法61条)、提供された『登記原因証明情報』が登記官の審査の対象とされました。売買による所有権移転であれば、売買契約書や売買契約及び物権変動の事実を記載し売主が署名又は記名押印した書面などが『登記原因証明情報』に当たります。
7.『登記原因証明情報』の機能は、登記申請及び登記原因の真実性を担保し、これを利害関係人に公開することで、国民の権利保全、取引の安全と円滑に資するという不動産登記制度の目的(法1条)そのものの実現にあります。
8.本問のような中間省略登記は、物権変動の過程を忠実に反映したものとは言えませんので、不動産登記制度の目的に反しますし、登記の申請に際して、実体上の権利変動に合致しない内容虚偽の『登記原因証明情報』を登記所に提供することになりますので、弁護士、司法書士などの資格者代理人がこのような登記申請に関与することは職業倫理上問題があります。
9.以上のことから、改正不動産登記法のもとでの中間省略登記(判決に基づく場合を除く)は、事実上もできなくなったものと理解しておくべきでしょう。

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