新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.398、2006/4/24 13:57

[刑事・起訴後]
質問:私選弁護人に依頼していますが東京地方裁判所で実刑判決が下されたので、引き続き依頼して控訴したいのです。手続きについて教えてください。

回答:
1、第一審の判決に不服がある場合は、控訴することができます(刑訴法372条、裁判所法16条1号)が、控訴が認められるためには控訴の理由が必要です。控訴理由には、第一審の判決に及ぼす影響を問わずに上訴が認められる絶対的控訴理由(刑訴法377条、378条)と、判決に影響を及ぼすことが明らかであるときに上訴が認められる相対的控訴理由(同法379〜382条)とがあります。あなたの場合どのような理由で控訴したいのか不明ですが、事実関係には争いがなく、実刑という部分にのみ不満があるのであれば量刑不当を理由に控訴することになるでしょう。
2、弁護人選任届については、第一審から引き続き弁護人となる場合でも、選任届を新たに控訴裁判所に提出しなければなりません。提出場所は、裁判所の記録が控訴裁判所に移る前であれば、第一審裁判所の係属部に、裁判記録が控訴裁判所に移った後であれば、控訴裁判所の事件係、もしくは決定した係属部となります。
3、さて、控訴を提起するには、第一審の裁判の告知を受けた日から14日以内に、控訴申立書を第一審裁判所に提出しなければなりません(同法373条)。この間では、控訴理由や第一審の記録を検討することは時間的に困難であるため、まずは、第一審裁判所に控訴申立書を提出することになっています(同法374条)。控訴申立書というのは、書面上形式的に「上記被告人に対する○○被告事件について,平成○年○月○日東京地方裁判所が宣告した被告人を懲役○月に処するとの判決は、全部不服であるから控訴を申し立てる。」と記載します。提出は、弁護人、被告人どちらからでも提出できますし、被告人として身柄が拘束されていても担当官に申し出て警察の留置場、拘置所(東京であれば小菅の東京拘置所)から被告人単独にて提出することもできます。
4、次に、控訴申立書を提出した後に、具体的な控訴の理由を記載した控訴趣意書を提出することになります。提出期限の知らせは、控訴裁判所から特別送達にて弁護人宛に送達されます。控訴趣意書差出最終日通知書というもので、通常の事件であれば控訴趣意書提出までに凡そ1ヶ月間猶予が与えられ、どこに何部提出すべきかなどについては通知書に明記されています。ちなみに東京高等裁判所では6部提出することになっています。新たに証拠を取り調べてもらいたい時は原則として(事実の取調べ請求(同法393条))控訴趣意書提出の1週間ほど前までに、東京高等裁判所と東京高等検察庁に提出することになっています。控訴趣意書を提出した後に、公判期日が決定し控訴審が開かれます。控訴の理由が実質的に乏しい場合は一回で結審になることが多いと思われます。
5、刑事裁判の控訴審は、民事裁判の控訴審と違い事後審であるため、第一審の訴訟記録と証拠に基づいて、もう一度原判決が正しかったのか、法律事項に関する判断の誤りの有無を審査することになりますが、第一審後に、新たな事情(被害者との示談が成立したなど)が生じた場合には、必要に応じて取調べがなされます。控訴審の判決では、控訴申立に理由がないと判断された場合には、控訴が棄却、原判決に誤りがあると判断された場合には原判決が破棄され、新たに判決がなされることになります。更に、控訴審の判決に不服がある場合には、最高裁判所に上告することもできます。
6、なお、控訴審において実刑判決が見直されて原判決が破棄され、執行猶予が付されれば控訴の目的は達せられたことになります。しかし、原判決の破棄さえなされれば、執行猶予が付されなくても控訴から控訴審の判決確定までの期間は全て未決勾留日数に算入され(刑事訴訟法495条)、その期間は刑期からから控除されるのでまったく利益がない訳ではありません。

≪参考条文≫

刑事訴訟法
第三百七十七条  左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
一  法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
二  法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  審判の公開に関する規定に違反したこと。
第三百七十八条  左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
一  不法に管轄又は管轄違を認めたこと。
二  不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。
三  審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。
四  判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。
第三百七十九条  前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第三百八十条  法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。
第三百八十一条  刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第三百八十二条  事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
第四百九十五条  上訴の提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に通算する。
2  上訴申立後の未決勾留の日数は、左の場合には、全部これを本刑に通算する。
一  検察官が上訴を申し立てたとき。
二  検察官以外の者が上訴を申し立てた場合においてその上訴審において原判決が破棄されたとき。
3  前二項の規定による通算については、未決勾留の一日を刑期の一日又は金額の四千円に折算する。
4  上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留は、上訴中の未決勾留日数に準じて、これを通算する。

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