新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 参照条文 【憲法】 【刑事訴訟法】 【公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例】
No.415、2006/5/30 17:49 https://www.shinginza.com/chikan.htm
「刑事・起訴前・常習」
質問:私はこれまで複数回にわたり、同じ女性に対し、痴漢行為をしてしまい迷惑防止条例違反(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反、条例は各県により内容が異なりますが本件は東京都の条例違反として考えます。)で逮捕されてしまいました。3年前に同じような罪で罰金を支払っています。又、逮捕はされていませんがその間に同種犯行を行い、追求により警察署でもその旨供述しました。警察官から「君は常習だね。罪は重いですよ。」といわれました。どのような処分が下されるのか心配です。どうしたらいいでしょうか。
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回答:
1.迷惑防止条例違反事件の場合、初犯であれば略式請求手続き(検察官が簡易裁判所に対して、通常の公開裁判を開くことなく、書類の審査のみで50万円以内の罰金刑を言い渡す略式命令を求める手続きです。刑事訴訟法第461条)により30万円前後の罰金に処せられるのが通常です。もちろん犯情等により通常の刑事裁判、公判請求も理論的には可能です。しかし、あなたは同じ女性に対し数回にわたり迷惑行為をしており、3年前にも同様の犯罪を行っているので警察署の方がおっしゃるように「常習」すなわち迷惑防止条例違反の罪の常習犯に関する罪に該当するのではないかとの問題が生じます。常習犯に該当すると以下のような違いがあります。@常習犯の場合は一般の場合よりも刑が2倍になっています。罰金が上限100万円(通常の場合50万円)、懲役が上限1年(通常の場合半年)になります。警察官が「罪が重い」といったのはこの意味です。A次に、検察官が被疑者について50万円を超える罰金が相当と判断すると略式請求手続きをとることが出来ず、公開の裁判により処分を決定することになります。略式請求手続きは、被疑者が同意するのであれば、処分の軽い50万円以下の罰金、科料に限り非公開により起訴から命令までの裁判手続きを簡略化して、被疑者が勾留されている場合にはほぼ1日で全て行うものです。しかし、通常の刑事裁判すなわち公訴提起になれば、勾留されている場合には同じ有罪でも身柄拘束の延長、保釈の申請、裁判官との面接、数百万円の保釈金の準備、1−2ヵ月後の公判期日の決定、弁護人選任、接見、さらに公開ですから一般傍聴人の存在など被疑者にとっては手続き上大きな違いが生じ、被疑者の負担もかなりのものになります。
2.次に、あなたの犯行が常習に該当するかどうかですが、条文上は「常習として」とのみ規定してあり、その内容は抽象的です。すなわち、どれだけの期間にどれだけの回数を重ねれば常習といえるか不明なわけです。常習犯とは、同種犯罪行為を反復して多数回行う性癖を有する犯罪者と考えられます。では、どの程度行えばこれに該当するかははっきりと犯罪回数を定義することは難しいと思いますが、あえて具体的に言うならば最低でも3−5年以上の間ほぼ毎年同種犯罪行為を反復行い処罰されていることが必要と思います。刑罰は国民の人権を奪い制限するものですから、規定の解釈に当たっては厳格に制限的におこなわなければならず(これを刑法の謙抑主義といいます)、常習犯と一般犯とでは前述のように被疑者にとって大きな差異がある以上、一般人がみても同種犯行を反復して行う性癖を有するものと認められる程度の回数、期間が必要と思われるからです。検察官の判断基準は内部資料としてあると思いますが詳細は把握していません。
3.今回は、同じ女性に数回、3年前にも同種前科がありますが、ほぼ毎年という評価は難しいと思われますので、最終的には常習犯との認定は難しいと思われます。尚、あなたは逮捕されていませんが毎年同種犯行を行ったと今回警察で供述していますから要件に当てはまるようにも思いますが、今からそのような犯行を立件することは事実上不可能ですし、処罰もされていませんので刑法における類推解釈、拡張解釈禁止の原則から常習犯決定の材料には出来ず、やはり常習犯との認定は困難であると考えられます。しかしながら、情状はかなり重いと言わざるを得ません。公判請求はされないでしょうが、略式手続きにより罰金50万円程度が予想され、再度逮捕されることがあれば、今度こそ常習犯として処分されることを覚悟しなければならないでしょう。
4.次に、貴方の今後の対応ですが、条例違反といえども立派な刑事犯罪ですから主張したいこと、処分特に常習性などについて意見を述べたいことがあれば弁護人を選任することが出来ます。逮捕されたわけですから常習性に近い犯歴があることから検察庁に送検され、10日間の勾留請求がなされて、更には余罪、同一女性への犯行回数の取調べの必要性からもう10日間の勾留延長が予想されます(刑事訴訟法208条2項)。勾留期間が最初に10日間あっても捜査官は他の事件関係や、懲らしめの意味もあり、被疑事実に争いがなければ連日取調べがあるわけではありません。本件でも10日間のうち警察署において1−2回、検察庁で1回程度でしょう。本件は親告罪となっている強制ワイセツと同様に女性の性的プライバシイー保護の必要性から被害者側の意思も十分考慮されて処分されることになりますので、先ずは被害者への謝罪を優先することが大切です。もっとも、被害者の方は、事件を思い出す為、なかなか話しを聞いてくれないかもしれませんが、謝罪し、交渉を続ける事が肝要です。ご自身やご家族で被害者の方と交渉することも考えられますが、被害者の方は事件関係者に会おうとしないのが通常ですので、お困りの場合はお近くの法律事務所にご相談されることをお勧めします。弁護人は守秘義務もあり中立的立場で被害者と接触も可能ですし、示談の成立等により場合によっては早期釈放、処分保留、起訴猶予もあるかもしれません。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
第八十九条 保釈の請求があつたときは、左の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮にあたる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が判らないとき。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第四百六十一条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、五十万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第五条 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
第八条
1 次の各号の一に該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
一 第2条の規定に違反した者
二 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者
三 第5条の2第1項の規定に違反した者
2 前項第2号(第5条第1項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 次の各号の1に該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
一 第7条第2項の規定に違反した者
二 前条第3項の規定に違反した者
4 次の各号の1に該当する者は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
一 第3条の規定に違反した者
二 第4条の規定に違反した者
三 第5条第3項又は第4項の規定に違反した者
四 第6条の規定に違反した者
五 第7条第1項の規定に違反した者
六 前条第1項の規定に違反した者
5 前条第2項の規定に違反した者は、30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
6 第7条第4項の規定による警察官の命令に違反した者は、20万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
7 常習として第2項の違反行為をした者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
8 常習として第1項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
9 常習として第3項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
10 常習として第4項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。