新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.427、2006/6/30 10:35 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・親子]
質問:私は、元の夫と離婚して3年になり、元夫との間に現在3歳の息子がいます。離婚の際、息子の親権を私が取り、口約束ですが、月々5万円の養育費の支払いをしてくれるといっていたのですが、一回も支払ってもらったことがありません。これまでは何とか自分の収入でやりくりしていましたが、最近、不景気で、それまで働いていた勤務先からやめて欲しいと言われ、退職をせざるを得なくなりました。養育費を支払ってもらいたいのですが、どのような手続きをすればいいですか。また、実際に支払いが始まるまでにどのくらいかかるか、一度決まった額については確実に支払われるのかについても教えてください。

回答:
1、養育費をどのように支払ってもらう方法については、例えば、弁護士に依頼した場合、まず、内容証明を送り、裁判外で相手方との話し合いの機会を持ち、それで話し合いが出来なければ、調停(審判)あるいは、裁判の手続きに進むことが普通です。家庭裁判所での調停(審判)あるいは、地方裁判裁判所での裁判のどちらの手続きになるかについては、養育費の合意に反して養育費が支払われない場合の履行請求は、民事訴訟事項であり、地方裁判所に契約に基づく履行請求事件として提訴することができる、とするのが判例・通説とされていますが、あなたの場合には約束があったといっても、口約束でそれを立証することも難しいでしょうから、家庭裁判所に調停を申し立てればよいと思います。
2、そして、調停(審判)を申し立てる場合には、必ずしも、5万円にこだわらず、養育費算定表に従った養育費の金額を書いて、これを支払えという形で、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをすることになります。その際、あなたと相手方の戸籍謄本が必要になります。申し立てがされると、だいたい1ヶ月後以降の期日が指定され、その後も一月に1回くらいのペースで期日が指定されることが通常です。実際に支払われるのは、基本的には調停成立あるいは審判が出た後ですから、事案にもよりますが、支払われるまでには半年以上かかるという覚悟が必要になります。ただ、養育費については、全く払わなくても良いという結論にはなりにくく、にもかかわらず、調停成立あるいは審判が出るまで一切支払われないというのは明らかに酷ですから、調停の場合には明らかに認められる部分については、内金として支払うように裁判所が勧告するようなケースもあります。また、このような勧告には強制力はありませんから、調停を不調にし、審判に移行してもらい、係属している家庭裁判所に審判前の保全処分(家事審判規則52条の2、95条)を申し立て、当面、養育費の仮払いを求めるということも可能です。ただ、当然のことながら、養育費の仮払いの仮処分が認められるためには、本案認容の蓋然性、保全処分の必要性、緊急性などが必要で、それを疎明する資料を提出しなければなりません。イギリス人母から日本人父に対する子の養育費の仮払いの仮処分を求めた事案で、母が大使館を解雇され収入が半減し、子の学校の授業料・給食費の支払にも事欠く状況にあること、父の履行が期待できない状況にあることから、保全の必要性を認め、月3万5千円の仮払仮処分を認めたというような例があります。支払い開始まで待つことがどうしても厳しいというような事情があれば、このような方法を考えることになるでしょう。
3、調停調書、あるいは審判などで、決まった養育費の支払いについては当然相手方は法律上支払い義務を負うことになりますが、任意に支払わない場合には原則的には、差押の手続きを取って、強制的に取り立てるということになります。ただし、差押の手続きは煩雑なので、養育費の支払い債務については、申し立てにより、家庭裁判所が履行状況を調査し、義務者に対して履行勧告をすることができ(家事審判法15条の5、25条の2、人事訴訟法38条1項)、また、申し立てにより、相当の期限を定めて義務者に履行を命令することもできる(家事審判法15条の6、25条の2、人事訴訟法39条1項)ことになっています。履行命令にも差押のような執行力はありませんが、履行命令に従わないときは、義務者は10万円以下の過料の制裁があるので、ある程度の効果は期待できるでしょう。家庭裁判所による履行勧告、履行命令によっても義務者が支払わない場合には、給料の差押などの手続きをとることになりますが、養育費については、一部に不履行があった場合には、まだ期限の到来していない部分(将来給付)についても、強制執行が可能であり、また、相手方の給料などの継続的給付債権のうち税金・保険料を控除した残額の2分の1まで差し押さえることが出来る(民事執行法152条3項)ことからすれば、相手方がある程度の安定した職業についている場合には、養育費の支払いが確保しやすいということは言えるかと思われます。なお、2005年4月からは、養育費の支払いについての強制執行の態様として、間接強制の手段も認められることとなりました。(民事執行法167条の15)

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