新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.435、2006/7/4 16:10 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

[家事・相続]「相続財産からの果実の帰属について」
質問:父が平成17年5月1日死亡しました。相続人は子供である兄と私の二人です。主な相続財産は土地建物です。建物は賃貸中で毎月合計100万円の賃料収入があります。兄とは遺産分割の話をしてきましたが、平成18年5月1日に、兄がこの土地建物を相続することで遺産分割協議が成立しました。その際、父親がなくなってから現在までの賃料収入をどうするか問題となりましたが、兄は遺産分割協議で自分が土地建物を取得したのだから父親が死亡した後の賃料は自分が取得すると言っていました。私は納得できなかったので遺産分割協議ではそのことについては触れていません。父死亡後の賃料は兄が管理して兄名義の銀行に賃借人から振り込まれています。私は、この家賃について権利がないのでしょうか。権利があるのであれば、兄に請求したいと思いますが可能でしょうか。

回答:
1、結論から説明すると、お兄さんの主張は誤りです。あなたは、平成17年5月1日から翌年4月30日までの賃料合計1200万円のうち2分の1の600万円をお兄さんに請求できます。
2、共同相続人の間で遺産分割協議が成立すると、遺産分割の効力は、相続開始時にさかのぼってその効力が生じるとされています(909条)。この規定をそのまま適用すると、相続財産である土地建物は、相続開始時(相続人の死亡時)である平成17年5月1日からお兄さんが取得していることになります。そこで、賃料もその日からお兄さんが全額受け取れると言う考えもまったく理屈としては成り立ちます。
3、しかし、他方で相続人が2名以上いる場合は、共同相続とよばれ相続財産はその共有に属すると民法で規定されています(898条)。この規定によれば、遺産分割協議が成立するまでは、相続財産である土地建物は相続人であるあなたとお兄さんの2分の1ずつの共有となります。そして、共有物を賃貸した場合は特に約束しない限り、賃料債権は分割債権として、共有者各自が共有持分の割合に応じて請求できることになっています。この点については、従来から最高裁判所の判例が認めているところです。ですから、この最高裁判所の考え方を前提とすると遺産分割協議成立までは、賃料債権は各相続人が相続分に応じて取得していることになります。(なお、誤解のないように説明しますが、賃料は法定果実とよばれ相続財産である土地建物から生じた賃料は相続財産には当たらないと考えられています)。
4、このような最高裁判所の判例を前提とすると、相続開始後の相続財産から発生した賃料は、遺産分割以前に各共同相続人に確定的に帰属し、遺産分割の結果に影響されることはないと考えられてきました。そして、これまでの判例を踏まえ、最近最高裁は「遺産である賃貸不動産を管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。」と判断しました(判例タイムズ1195号101ページ参照)。
5、このような、結論は初めに説明した民法909条だけを見ると条文に反するようにも思われます。ですが民法898条の規定もあるので、両者の条文を考えながらどのような結論を出すのが妥当かというのが法律の解釈と言う問題です。ちなみに、前期の最高裁判所の判決では民法909条については「遺産分割は、相続開始時にさかのぼってその効力を生じるものではあるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後になされた遺産分割の影響はうけないものいうべきである。」として、自らの結論は民法909条に反しないとしています。
6、これが法律の解釈ということです。お兄さんのように民法909条の文言だけをとらえると間違った結論になってしまいます。正しい結論を導き出すには法律全体の理解が必要と言うことがよくわかると思います。

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