新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.436、2006/7/4 16:14

[民事・契約]
質問:私(甲)は12年前、生活に困り、友人のAさんから200万円の借金をしました。毎月4万円ずつ、50回に分けて返済することになっていましたが、12回ほど返済したところで私は病気になってしまい、仕事を続けることが出来なくなったので、返済をやめてしまいました。Aさんは私の体調等のことをよく知っていたためか、一切借金の返済を迫ったりはしなかったのですが、そのAさんが昨年亡くなり、ただひとりの相続人である息子のBさんが、昨日、契約書を携えて私の家まで来て、すぐに全額を支払うようにと請求してきました。私はすぐに、借金を全額返済しなければいけないのでしょうか。なお、契約書には1回でも返済が滞った場合、残金全額について直ちに、一括で返さなければならないという特約(期限の利益喪失特約)が記載されていました。

回答:
借金の一部については、返済する必要があると思われます。
1、まず、BさんはAさんの唯一の相続人ということですので、相続放棄等をしていない限り、Aさんが甲さんに対して有していた債権を引き継ぐことになります。
2、次に、問題となっている債権についてですが、本件のように個人が個人から生活費に充てるためにお金を借りたような場合、その債権は10年で時効消滅することになります(民法167条2項)。
3、その「10年」を計算する出発点(起算点といいます。)ですが、これについては「権利を行使することができる」時(民法166条1項)。とされています。返済期日が定められている債権については、期日が到来してはじめて債権者は「権利を行使することができる」ことになるので、返済期日がこの「起算点」となります。本件のように、債務を分割して支払うことになっていた場合には、それぞれの返済期日が、それぞれ分割された額(割賦金額)についての起算点となります。
4、問題となるのは、本件のように「返済が一度でも遅れた場合には期限の利益を喪失させる」旨の特約がある場合についてですが、この点について判例は「一回の不履行があっても、各割賦金債務について約定弁済期の到来ごとに順次消滅時効が進行し、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をしたときにかぎり、その時から右全額について消滅時効が進行するものと解すべきである。」としています。つまり、返済が遅れた場合、その時点から直ちに残債務全ての時効期間の計算が開始されるわけではなく、あくまで、当該返済を遅滞した割賦金額についてのみ、消滅時効の期間計算が開始されることになるのが原則、ということになります。一方、返済が遅れたことで、債権者から「期限の利益を喪失したから、残金全てを一括で支払え。」などといった通知があった場合には、その時点から全額について消滅時効の期間計算が開始されることになります。
5、以上を前提に本件について考えてみます。甲さんは13回目の支払期日から返済を遅滞していますが、その時点でAさんが甲さんに対して直ちに残債務につき全て支払うように言ってきたという事実は無いようですので、13回目の支払期日をもって、残債務すべてについての時効の起算点とすることはできません。13回目の支払期日に支払うはずだった割賦金額(4万円)についてのみ、この日が時効の起算点になります。その後も、Aさんからは一切支払いの請求は無かったということですので、14回目の期日以降もそれぞれの期日が、それぞれ支払うはずだった割賦金額(それぞれ4万円ずつ)について時効の起算点となります。そして、上述したように本件債務の消滅時効期間は10年ですので、それぞれの時効の起算点から10年が経過したものについては、時効により消滅していることになります。逆の言い方をすると、今から計算して10年以上前に支払期日が到来している部分については時効によって債務が消滅していますが、支払期日から10年が経過していない部分については、なお、債務が存在しています。もっとも、時効は(争いはありますが)援用をしてはじめて債務が消滅することになっていますので、時効による消滅を主張したい場合には、必ず、Bさんに対して時効を援用する旨通知するようにして下さい。証拠として残すため、内容証明郵便で通知するのがよいでしょう。Bさんに対して、債務が残っていることを認めるような発言をした場合、時効を援用することが出来なくなることもありますので(法的には時効完成後の債務の承認といって判例は当事者間の信義誠実の原則から、そのような場合、時効完成後の時効援用を認めていません。すなわち時効が完成していても支払い義務が残ることになります。)、その点には十分に注意が必要です。残債務の計算が上手く出来ない、時効援用の方法がよく分からない、ということであれば、弁護士等、法律専門家に相談するようにして下さい。

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