新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.437、2006/7/4 17:57 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴後]
質問:私の弟は、2年前に交通事故を起こして、懲役1年執行猶予3年の判決を受けたのですが、2ヶ月ほど前に窃盗事件を起こしてしまいました。昨日、第一審の裁判は終了し、懲役10月の実刑判決が出されました。このままだと前の裁判で出していただいた執行猶予も取り消され、前回の懲役1年と併せて1年10ヶ月も刑務所に入らなくてはならなくなると聞きました。何とか執行猶予のついた判決を出して欲しいと思っているのですが、控訴をして執行猶予がつく可能性はあるのでしょうか。

回答:
確かに、第一審で実刑の判決が出てしまった場合、これを控訴審で覆すことは、一般的に困難であるといえます。もっとも、第一審段階で示談が成立しなかったが、今後、示談成立の見込みがある場合などについては、示談成立という事情も加味して判断してもらうことは可能なので、示談成立を見込んで、控訴する意味はあると思います。
1、執行猶予期間中に犯罪を起こしてしまった場合でも、法律上、再度の執行猶予がつく可能性は皆無ではありません(刑法25条2項)。
2、とはいえ、一審で実刑の判決が出た以上、控訴審において、一審と全く同じ証拠を用いて裁判をしたとすれば、一審の判決が覆る可能性は極めて低いと言ってよいでしょう。もっとも、一審の段階では示談がまとまらなかったが、控訴審段階で示談が成立するという可能性もないわけではありません。そこで、量刑に不満があるような場合にはやはり、控訴の申し立てをし、弁護士に依頼して改めて示談に向けた弁護活動をしてもらうことが重要です。
3、刑事裁判の控訴審は、原則として事後審制をとっており、原審の裁判に誤りが無かったかどうかの判断が主眼となりますが、第一審の弁論終結後に生じた事由についても、これを付加して審理することは可能であるとされています(刑事訴訟法381条、382条の2、392条、393条)。例えば、第一審の弁論終結後に示談ができた場合には、控訴審において和解合意書を取調べるよう申し出ることができ、控訴審裁判所は、この新たに取調べた事実を加味して、改めて判断をすることが出来ます。そのようにして判断した結果、第一審の段階においては実刑が相当であったが、第一審の弁論終結後の事情を加味すれば、第一審の判決は不当となるので、控訴審においてこれを破棄し、改めて執行猶予のついた判決をする(自判)ということも考えられるのです。本件のように執行猶予中の犯罪については、例えば交通事故のような過失犯であればともかく、窃盗罪のような故意犯では、再度の執行猶予がつくことは少ないといえますが、前回の裁判から比較的長期間経過していることを考え合わせると、再度の執行猶予がつく可能性も完全には否定できません。以上からすれば、やはり、控訴の申し立てはすべきであろうと思います。
4、なお、控訴審で原審の判決が破棄された場合には、原審の判決後の未決勾留日数(控訴審の判決が出されるまでの勾留日数)は全て刑に算入されます(刑事訴訟法495条2項2号)が、破棄されなかった場合には、原則として原審判決後、控訴の申し立てをした日までの期間だけが刑に算入され、残りの期間について算入するかどうか、算入するとしてどれだけの期間とするかについては、裁判所の裁量ということになります(刑法21条)。

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