新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.441、2006/7/7 18:28 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm
[債務整理]
質問:会社の取締役をやっていた時に銀行に対する会社債務の保証人となり自宅を担保に入れました。会社は5年前に破産し管財人がついて最後配当までいきました。会社が倒産した後、保証人となっていた他の取締役(5人)と協力して、月々わずかですが毎月一定額を5年間銀行に返済してきました。それなのに、今般、どういうわけか私だけ銀行から自宅の競売手続を取られました。自宅には住宅ローンがついていますが、ようやく終わりに近づいてきています。どうしたらよいでしょうか。
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回答:
1.毎月銀行に対して一定額の弁済をしていたにもかかわらず、銀行が自宅の競売手続を裁判所に申し立て、競売開始決定が届いたということです。おそらく銀行側は、自宅の住宅ローンが少なくなってきたのを見越して、一気に債権を回収しようという手段に出てきたものと思われます。このような場合、何もしなければ競売手続が粛々と進められ、自宅を失うことになりかねません。対抗手段としては、一時的に競売を停止し弁済方法について協議する機会を作るため、特定債務者等の調整の促進のための特定調停に関する法律が平成12年2月17日から施行されていますので、これによる民事執行停止の制度(同法7条1項)を利用すればよいと思います。これは、特定債務者(金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの等、同法2条1項)について、当事者の互譲により特定債務等の調整が期待できる実情にある場合に、債権者による民事執行の手続が進行し、特定債務者の財産が売却されるなどして、特定債務者の経済的基盤が破壊されることになれば、特定調停の成立やその履行の可能性が失われてしまうことから、「特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容」の合意の形成を図る目的のため、裁判所が申立により一時的に特定調停の目的となった権利に関する民事執行手続の停止を命ずることができるとする制度です。
2.これを利用するには、まず特定調停を申し立てます(同法3条)。必要書類は、事業者ではない個人については、債権者・担保権者一覧表、契約書等(負担する債務の発生原因を明らかにするもの)、資産一覧・固定資産の評価証明書、家計簿・通帳のコピー・給与明細書等、その他生活状況を示すもの、同居人の生活状況を示すものなどです。その後もしくは同時に、民事執行手続停止の申立を行います。特定調停手続規則では、同法7条1項の申立ては、@当該民事執行の手続の基礎となっている債権または担保権の内容、A担保権によって担保される債権の内容、B当該民事執行の手続の進行状況、C特定債務等の調整に関する関係権利者の意向、D調停が成立する見込みの各事項を明らかにし、かつ、その証拠書類を提出してしなければならないものとされています(同規則3条1項)。なお、民事調停規則第6条1項による民事執行手続の停止の制度では、常に裁判所が定めた額の担保を提供する必要がありますが、本法においては、裁判所の判断により、場合によっては無担保で停止命令を発令することが認められています(第7条1項本文)。執行停止命令の効力は、民事執行手続を当該調停事件の終了までの間、一時的に停止するにとどまり、すでにされた執行処分を取り消すような効力をもつものではありません。また、当事者に調停が成立する見込みがなければ、当該調停事件は本法18条によって終了しますので、債権者に調停に応じる意向がないことが明らかであれば、仮に執行停止命令が発令されたとしても、当該調停の終了により、執行停止命令の効力も失われることになります。従って、本件では、銀行との間で債務の弁済に関する協議を持ちかけ、その中での銀行の対応・姿勢を記録に残しておくこと、特定調停手続に参加することへの要請などが必要となるでしょう。
3.特定調停の中で行われるのは、(1)申立人が特定債務者であることの確認、申立人の債務の確定、(2)申立人の資産・今後の営業・収入等、弁済原資、支払能力の算定、(3)再建計画・弁済計画の策定となります。特定調停においては、債務者の示した弁済計画に債権者側が互譲して受け入れるかどうかが重要なポイントになりますので、弁済額の単なる見込みではなく、相当しっかりした根拠ある弁済計画案の作成が要求されるでしょう。
4.以上より、あなたとしては、法的専門家と協議し、執行停止命令が無担保で発令されるようにまず裁判所に求め、自宅の評価、(仮に競売手続きで最低売却価格が出ていれば基本的にこの価格が和解等の参考になるでしょう。)他の取締役保証人の財産状態等を資料にして銀行側と和解できるように裁判所で話し合いをすることが望まれます。他の取締役にも利害関係人としての調停に参加を要請してみましょう。場合によっては弁済計画案が銀行に受け入れられ、競売手続は取り下げられることがあるかも解りません。
5.なお、民事再生の可能性ですが、本件は、保証債務と住宅ローン以外に他に債務が無く、保証債務には住宅ローンに次ぐ2番抵当権がついている事案ですので、保証債務は民事再生上、別除権扱いとなり、競売後の不足額をもって再生計画を作成できる関係となります。従って、競売を止めて話し合うとしても、民事再生上の手続では再生計画案が作成できず、結局裁判外での話し合いとなってしまい、相手方と公の場で話し合う目的は達成できなくなります。本件は、特定調停が効果的な事例ということができるでしょう。