新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.449、2006/7/27 15:19

[行政・許認可]
質問:X大学では、既存の2学部を統廃合して新しく部を新設し文部科学省に対する設置認可の届出をしました。ところで、かかる届出には設置後の教科担当教科表を添付する必要があるのですが、X大学の学部長は届出前に各教授から事前に就任の承諾を得ずに勝手に教科担当を決定しました。このような場合でも届出制の下では設置認可の手続に問題はないのでしょうか。承諾をしていないのに教科担当させられた教授としてはどう対応すればよいのでしょうか。

回答:
1、某大学が法科大学院設置にあたり虚偽申請をした問題に関連し、文部科学相の諮問機関である「大学設置・学校法人審議会(設置審)」は、虚偽申請に対し同大に厳重注意したという事件が以前にありました。この事件を契機として、改めて近時の改正法を踏まえた大学の設置認可に関するあり方がクローズアップされ、文部科学省として事後的に厳しい立場で臨むことを表明したものであります。
2、ところで、近時の改正法は大学の設置認可等の手続について届出制で足りる場合が認められるようになりました。これにより、大学側にとっては、機動的且つ自主的な組織再編等が可能となりました。実際改正法施行後に多くの大学(短大)において組織変更の手続がなされています。ただ、他方で、文部科学省の事前の審査が緩和されたことから大学当局が大学の実態とは異なる資料を提出するなどの弊害も出てきております。前記の某大学の例はその一つということになります。確かに、大学当局の立場からすると、大学の組織の合理化による経営改善や優秀な学生確保等の要請から大学の組織を再編することは一つの有益な手段といえるでしょう。ただ、他方で虚偽申請などの不正の発覚は大学の信用の低下につながることはもちろん、大学内部の教授(助教授、教員等を含む)や学生に不利益が生じることとなります。
3、質問では、事前に教授に対する就任の承諾を得ずに新設部の担当教科表が文部科学省に提出されたというものであり、とりわけ無断で教科担当に名前を書かれた教授にとって不利益が大きい事例といえます。また、学生の立場からしても、特定の教授の講義を受けられることを期待して入学するという場合が考えられるわけですから、後日教授が担当を拒絶したために入学後になってその教授の授業が受けられないということになれば、かかる学生の側の不利益も無視できないといえます。
4、そもそも大学の組織運営は大学の自治の観点から自主的に行われることが憲法上要請されます(憲法23条)。その意味で文部科学省による事前の審査の要件が緩和されたことはその要請に適い妥当であるといえます。ただし、そのように大学の自治が尊重されるということは裏返せば大学の側が大学の組織運営に関して自主的な責任を負うことが大前提であります。仮に大学の組織変更が許可制から届出制に変ったとしても大学内部の決定手続が疎かになってはならないのです。改正学校教育法は届出制を一部採用しましたが、改正前の専ら許可制を採用していた時と根本的な趣旨・目的は変わりません。即ち、学校教育法が大学の組織再編の際に文部科学省への許可・届出を要求する趣旨は、「大学の質」を保証することにより、ひいては学生の利益を保護する目的で専門家による事前の審査を規定したものであるという点では一貫するのであり、かかる趣旨に沿うように改正後では事前審査を緩和しつつ事後審査を充実させたに過ぎないのです。本件とのかかわりでいうと、事前に教員の就任承諾書の文部科学省への提出を義務付けることで事前に専門家の審査を受けるという方法から教授の就任承諾書等の文部科学省への届け出等は不要とすることで機動的、自主的な大学の組織変更をみとめつつ(大学の自治の尊重)、事後に教授の就任承諾書が作成されていないといった不正が判明した場合には学校教育法4条3項に基づく措置命令ないしは同法15条の改善命令を発することで「大学の質」の保証を確保しもって学生の利益を保護しようとの立場に立ったものであり、改正前と目的は異ならないといえます。そして、改正法(学校教育法69条の4)では、さらに事後的に第三者機関による認証評価制度も採用されております。したがって、本事例に関しても、就任承諾書なしに届け出がなされたことは上記事後審査により判明される可能性が高く、その場合上記各条項の「私立大学の設備、授業その他の事項に関する法令の規定に適合しないと認めるとき」に該当し上記に述べた厳重な処分がなされる可能性が高いこととなるわけです。
5、以上述べたように、質問に対する回答としては届出制の下でも法律上も問題があるということとなります。従って、不利益を受けた教授としては就任の承諾を受けていないことが法律上も問題があることを指摘し、あるいは就任の承諾をするかどうかを含めて改めて自分の立場を明確にすればよいのです。ただ、設置認可をした学部長に対し自己の立場を明確にしようとしても、教授に対して一切の説明をしないとか、永続的な発展の為の措置であるといったうやむやな対応で処理しようとすることが考えられます。これに対し、不利益を受ける教授の側としては理事長などさらに上層部に対して学部長らの不正を指摘することも考えられるわけですが、個人で大学側とことを構えることには抵抗を感じるでしょうし、教授の側でも大学外部にまで問題が波及することを避けたいとの配慮から、最終的に異議を差し控えざるを得ないということもあるようです。しかし、このようなうやむやな対応の体質自体が大学の問題性を表しているのであり、そのような体質がいつか表面化して大学の存亡の危機につながる事態もあるわけですし、そもそも間違いは早期に正すことが大学・教授間のさらなる信頼関係を醸成することともなるわけでそのことは大学全体の利益ともなるはずです。いずれにしても、教授の側で積極的な対応をとらないと事態は改善しないわけですから、教授が大学側と交渉することが難しいという場合には、簡単にあきらめないで弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士は依頼者の立場を優先しつつ大学の内外への影響をも考えて行動いたしますので教授の利益と大学側の利益を調整しながらの解決をすることが期待できます。具体的には、弁護士の活動としては、例えば大学の理事長に宛てた書面を作成(学部長の違法行為を指摘する。)するとか、直接に大学当局と交渉を行うことなどが考えられますが、いずれにしても依頼者の意向を最大限尊重する対応をすることとなるでしょう。

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