新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース ≪参考条文≫ 刑法 民法
No.457、2006/8/17 10:48 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事・起訴前・起訴後]「振り込み詐欺等の組織犯罪とインターネットによるアルバイト」
質問:インターネットで「携帯電話を持ってくればそれだけでお金になります。働いてみませんか」というアルバイト募集に応募し、募集主と携帯で連絡しあって手渡された偽造運転免許証を作って携帯ショップへ行き、申し込みをして何度か携帯電話を入手しました。また、同じように頼まれて偽造運転免許証を利用し、銀行から通帳とカードの交付を受けアルバイト料として合計数万円いただきました。前科前歴もありませんが私はどうなるでしょうか。逮捕された場合の弁護活動についても教えてください。
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1、罪名、起訴までの手続き、予想される量刑、理由
あなたは、アルバイト感覚でしたのかもしれませんが、結構これは重い罪になりますので重要な点を中心に説明いたします。あなたの行為ですが携帯電話ショップ、銀行で、偽造の免許書を利用していますから偽造有印公文書行使罪(刑法158条1項)、勝手に他人名義の申込書を作成し携帯電話及び通帳、カードの申し込みをして交付を受けていますので有印私文書偽造(刑法159条)・同行使罪(刑法158条)、携帯電話、通帳、カードを騙し取っていますから詐欺罪(刑法246条)にそれぞれ該当します。事件が発覚し警察署に逮捕された場合、あなたは容疑の犯罪事実、弁護人選任が出来る旨を告知され、弁解をする機会を与えられて警察官があなたの供述を簡潔に弁解録取書に記載した後(刑事訴訟法202条〜205条)、さらに留置して取り調べの必要性がありますから逮捕から48時間以内に検察庁(検察官)に送致されます。検察官は、被疑者について勾留が必要か否かを24時間以内に判断し、勾留が必要であれば裁判所に請求することになりますが、あなたの場合は罪数からも余罪の可能性からも必ず勾留請求がなされ裁判官により勾留質問の結果10日間の勾留が認められるでしょう(刑事訴訟法208条)。その後、延長が裁判官に認められれば、更に最大10日間の勾留が可能ですが(刑事訴訟法208条2項)、あなたの場合間違いなく共犯、罪数の関係からも勾留延長がなされるはずです。そして勾留満期後あなたは起訴され公開の刑事裁判が通常1-2ヵ月後に地方裁判所で行われることになり、一般的には2−3年の有期懲役が求刑されるものと思われます。あなたにとっては前科前歴もなく、数万円のアルバイト料しか受け取っていないのに厳しすぎるのではないかとの疑問もあるでしょう。確かに黒幕は他にいるようですし、携帯電話、通帳、カードの財産的価値はさほどのものではありませんが、この種の犯罪は近時問題となっている組織的な振込み詐欺などの手助け助長するもので派生する被害は甚大なものです。又社会的な影響を見過ごすことはできません。弁護人の立場から考えても犯行の回数にもよりますが起訴はやむをえないでしょう。
2、起訴後の手続き、保釈について 公判、判決
起訴された場合の手続きですが、前科がないあなたにとって留置場の生活は大変でしょうし、一刻も早く社会生活への復帰を希望すると思います。そこで保釈ですが、保釈は、組織犯罪と関連性、共犯の捜査があるので簡単には検察官の「しかるべく」という意見は出ないでしょうから立証が終了した第一回目の公判終了後には認められるでしょう。保釈金は、あなたが単なる手先であることから逃走の危険も少ないので200万円−300万円の範囲内と思います。検察官も弁護人と同じように保釈について金額を含め意見書を裁判官に提出するのですが、検察官側の保釈金額はいくら高くても300万円程度でしょう。裁判官は弁護人と検察官の意見を聞いて決めることになります。あなたが、起訴された事実(公訴事実といいます。)を認めてしまえば余罪の捜査がない限り裁判は2回、約2ヶ月以内に終了するでしょう。公判での弁護活動ですが、弁護人の仕事は、公訴事実が真実のものであれば、被告人の有利な事情を収集しあなたの罪責を少しでも軽くすることが第一の使命です。法律は、詐欺について言えば10年以下の懲役と抽象的に規定するだけで、何年にするかは、裁判官が様々な要素を考慮して決めることになります。例えば、犯罪が悪質性、被害が重大性、被害者感情、犯罪の動機、社会性、被害が回復されたか、前科の有無、反省の態度、更正できるか、生活環境などです。そこで、弁護活動について重要な点を順にお話いたします。
@先ず、あなたは犯罪行為をして被害者に迷惑をかけましたから被害者にお詫びをして、二度とこのようなことをしないことを誓約する必要があります。本件では被害者である携帯ショップと銀行に弁護人に出向いてもらいお詫び、被害の弁償、迷惑をうけた内容の確認と補償を進めなければなりません。携帯ショップに関しては、被害額は少ないようですがあなたとご家族の謝罪文等を持参して迷惑料を支払うことになります。捜査のための実況見分、事情聴取、その他お店の信用にも少なからず影響を受けているはずです。
A銀行に対する交渉は、困難が予想されます。個人ではなく会社組織ですから、和解金や関係書類を受領していただけることは難しいでしょうが(受領しないのが通常です)、被告本人の謝罪の意思を伝えることが必要となります。本件の実害は通帳とカードですから迷惑料等の和解金提示額も特に決まりはなく、話し合いで決められます。銀行で通帳とカードを詐取した場合は、被害者が当該銀行か、銀行窓口で担当した受付の女性か疑問があります。詐欺とは相手方を偽もうして錯誤により財物の交付を受けることですが、実際錯誤に陥っているのは受付嬢だからです。あくまで被害を受けたのは銀行ですから受付の人は単なる銀行の手足、機関と考えればいいでしょう。交渉の結果、仮に、関係書類や和解金を受け取っていただけないとしても提示した事実が必要です。これらの書面は、提示した証拠として公判の時に提出します。
B示談交渉の結果、弁護人が謝罪金を持参したのに受領を拒絶された場合には、謝罪金(損害賠償金+年5分の遅延損害金)を、被害者の本店所在地の法務局で供託(民法494条)することもできます。例えば、被害者の銀行に対し供託を行なう場合には、銀行の本店宛に行ないますが、仮に、支店で被害が起こった場合には、供託書の備考欄に、通知先として支店の住所を記載しておけば、支店宛に供託書が郵送されます。供託が完了したのであれば、供託書についても証拠として提出するとよいでしょう。刑事事件で供託をする場合は特殊ですので、法務局で受付を行う前に、事前に供託内容をFAXで法務局の担当者と確認をしていただいた方がよりスムーズです。
C本件の公文書、私文書の偽造罪、行使罪ついては、被害者は氏名を冒用、使われた人のように思うかもしれませんが、これらの犯罪は社会一般の私、公文書に対する信用が保護法益ですから謝罪は社会全体そのものに対して行うことになります。すなわち、架空の人間の氏名を冒用しても偽造罪は成立するのです。具体的には財団法人法律扶助協会などに贖罪寄附をすることがいいでしょう。贖罪寄附は、法律扶助協会が受け付けている時間帯であればいつでも行うことができます。仮に東京の霞ヶ関にある法律扶助協会で直ちに証明書を発行してもらいたい場合には、事前に連絡し、所定の雛型をFAXしてもらい、必要事項を記載し、こちらからまた法律扶助協会にFAXしておけば、決まった時間に証明書を準備していただけます。今回の事件の場合、その額は定まったものはありませんが、数十万円前後が考えられる額ですが上限はありません。贖罪寄附を受けたことの証明書と領収証を証拠として提出するとよいでしょう。
Dその他情状証人としてご家族、勤め先が予定されるなら雇用主に証言していただき、証拠の書面を精査してあなたに有利な点を書面(弁論要旨といいます)にて提出主張することになります。
E最後に判決の予想ですが、あくまで一般的予想に過ぎません。求刑が2-3年の有期懲役、判決ですが犯行回数が複数であなたの謝罪反省が認められることを前提に懲役2-3年、執行猶予3-5年でしょうか。具体的には担当した弁護人に相談しましょう。
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
第百五十八条 第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
第四百九十四条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。