新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース (維持保全)
No.468、2006/9/6 14:18 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm
[行政・手続]
質問:都内に実家の建物があり、その1階に昨年まで父が住んでいましたが、昨年3月に亡くなりました。2階は下宿で昔は人に貸したりしていましたが、かなり古い建物なので現在借主はいません。そのため実家は現在空家となっています。私は月に何度か用心のため実家を訪れますが、先日区役所から、「建物の維持管理についてのお願い」と題する文書が届き、門扉が片方はずれて閉まらないなどのため、敷地内に容易に侵入できるので、修理または建物の利用計画を知らせてくれと書いてありました。近隣住民から陳情があったとのことです。どのように対応すればよいですか。
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回答:
1、建物所有者は、建物を適正な状態に維持することが義務づけられています。即ち、建築基準法8条において、建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない、と規定されています。また、下宿というのは、建築基準法別表第一(い)欄の(二)に該当する用途ですので、同法8条2項、10条の適用があり、「所有者又は管理者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するため、必要に応じ、その建築物の維持保全に関する準則又は計画を作成し、その他適切な措置を講じなければならない」(8条2項)。「損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合」特定行政庁は、「当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告することができる」とされています。あなたの実家の場合は、近隣住民の陳情があったということで、8条2項の建築物の維持保全に関する計画があるのか否かを、地方自治体が法令適用の前段階として調査に乗り出したものと思われます。もしくは、自治体からの文書を詳しく読まなければ断定はできませんが、「損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険とな」るおそれがあると認め、修繕を勧告してきたと考えることもできるでしょう(10条1項)。従って、あなたとしては、他に相続人がいるならその方と相談して、門扉を修理するのか、それとも土地建物を含めた不動産全体につき取り壊し、改築、さらには売却等するのかを決めて、建物その他建築設備が適正な状態に維持されるような方法をとる必要があります。
2、建物等が適正な状態に維持される方法を検討せずに放置した場合には、10条1項の「勧告」、正当な理由がなく勧告された措置をとらない場合で特に必要ある時は「相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる」(10条2項)、「相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる」(同条3項)等の規定があり、それでも改善されない場合は行政代執行という措置まで取られる可能性があります(10条4項による9条12号の準用)。
3、ところで、本件において、門扉がはずれて付近を歩いていた人や車に衝突するなどの損害が生じた場合には、土地工作物の所有者が、その種の工作物として通常備えるべき安全な性状を欠いている「瑕疵」があると認められ、工作物の保存に瑕疵ありとして、損害賠償責任を負うことになります(民法717条)。
第八条 建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。
2 第十二条第一項に規定する建築物の所有者又は管理者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するため、必要に応じ、その建築物の維持保全に関する準則又は計画を作成し、その他適切な措置を講じなければならない。この場合において、国土交通大臣は、当該準則又は計画の作成に関し必要な指針を定めることができる。
(違反建築物に対する措置)
第九条 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。
11 第一項の規定により必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を命ぜられるべき者を確知することができず、かつ、その違反を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、特定行政庁は、その者の負担において、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨及びその期限までにその措置を行わないときは、特定行政庁又はその命じた者若しくは委任した者がその措置を行うべき旨をあらかじめ公告しなければならない。
12 特定行政庁は、第一項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、みずから義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
13 特定行政庁は、第一項又は第十項の規定による命令をした場合(建築監視員が第十項の規定による命令をした場合を含む。)においては、標識の設置その他国土交通省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。
14 前項の標識は、第一項又は第十項の規定による命令に係る建築物又は建築物の敷地内に設置することができる。この場合においては、第一項又は第十項の規定による命令に係る建築物又は建築物の敷地の所有者、管理者又は占有者は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。
15 第一項、第七項又は第十項の規定による命令については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章 (第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。
(保安上危険な建築物等に対する措置)
第十条 特定行政庁は、第六条第一項第一号に掲げる建築物その他政令で定める建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により第二章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)について、損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告することができる。
2 特定行政庁は、前項の勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。
3 前項の規定による場合のほか、特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により第二章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。4 第九条第二項から第九項まで及び第十一項から第十五項までの規定は、前二項の場合に準用する。