新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.469、2006/9/6 14:21

[民事・契約]
質問:6000万円で自己所有の土地に注文住宅を建てましたが、完成間近に見に行ったところ、建築中に強い台風が来たためか1階のサッシ付近の壁に雨漏りのしみができていました。建築業者に雨漏りの指摘をし、補修工事も行ってもらいましたが良くならず、少しの雨でも雨漏りがします。それなのに業者から、工事は完成したので残代金1500万円を支払えと言われ、渋っていたところ、建設工事紛争審査会から調停への呼び出しがきました。どうしたらよいでしょうか。

回答:
1、通常、請負工事契約では、工事が完成して引き渡したときに残代金を支払うということになっていますが、完成したかどうかは 「工事が予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には、仕事は完成したけれども、工事の目的物に瑕疵があるときに該当する」(東京高裁昭和36年12月20日判例時報295号28頁)とされていますので、あなたの場合も、工事が予定された最後の工程まで一応終了していると見られれば、工事は完成していると言え、雨漏りについては、「瑕疵」の問題と考えられます。
2、工事の目的物に瑕疵がある場合、注文者は請負人に対し、瑕疵の修補請求もしくは瑕疵修補に代わる損害賠償請求をすることができます(民法634条)。すでにあなたは、瑕疵の修補請求をしていますが良くならなかったとのこと、業者としても建設工事紛争審査会に調停を申し立ててしまっているので、これ以上同じ業者に修補請求をしても改善されないと考えるならば、修補に代わる損害賠償をお金の形で請求することができます。少しの雨でも1階サッシ付近の壁に雨漏りがするという現象がなぜ起きているのか、原因はサッシの問題なのか、サッシ付近のコンクリート、水切り勾配や軒先の切り込み等の問題なのか、そのあたりにつき建築士の協力を得て、他の業者に修補してもらうといくらかかるのかを見積ってもらってください。その上で、修補に代わる損害賠償請求として、見積もられた金額を支払ってもらうまでは残代金を支払うことはできないと反論することができます。つまり、工事が完成したとしても、瑕疵が残っている限りは請負業者はそれを補修しあるいはこれに代わる損害賠償を注文者にして初めて残代金を請求するということになります(注文者の瑕疵修補請求権と請負人の工事代金請求権は民法533条の同時履行の抗弁権の適用を受け、同法634条2項は修補に代わる損害賠償について請負代金と同時履行の関係にあると解されています。平成9年2月14日最高裁も同趣旨「請負契約において、仕事の目的物に瑕疵があり、注文者が請負人に対して瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めたが、契約当事者のいずれからも右損害賠償債権と報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合又はその意思表示の効果が生じないとされた場合には、民法六三四条二項により右両債権は同時履行の関係に立ち、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは、自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。しかしながら、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み、右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、この限りではない。」)
3、建設工事紛争審査会は国土交通省や各都道府県にありますが、建設業法に基づいて、注文者と工事業者との間の請負に関する建設工事に関する紛争の調停・仲裁を行うこととなっています。調停の進め方は、法律の専門家1人、建築・土木などの技術に関する専門家1人、国土交通省の役人のOB(建設行政経験者)1人の計3人で調停委員会を構成し、申立人と被申立人とを双方を立ち会いのもとで口頭弁論と証拠調べのような形で手続きを進めていきます。現場を見に行くこともありますし、建築の専門家が現場で発言することにより、裁判とは違った展開になることもあります。あなたとしては、建設工事紛争審査会に出席して、これまでの経過の確認、雨漏りの主張、修補に代わる損害賠償請求をしてもよいですし、訴訟を起こすことも可能です。但し、修補に代わる損害賠償請求金額と工事代金の相殺は(いくつかの判例でできることになってはいますが)軽々にしない方がよいでしょう。その時点で工事残代金が確定してしまいますので、標準請負契約約款にいう違約金が発生してしまいます。

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