新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.470、2006/9/6 14:24

[民事・執行]
質問:私の父は、自宅を担保に高利貸しから借金をしていましたが、利息も支払わずにいたところ、競売になりました。借金をして担保を設定していたことは間違いないのですが、既払いの利息の支払について疑問があります。父の説明では、途中利息を支払っていた期間もあったが今回債権者はその期間の利息についても請求しているとのことです。競売手続は先日入札が終わり、売却許可決定もありました。この時点で、父としてはどのような手続をとることが可能でしょうか。

回答:
そのような場合、債権の額を争うことになりますが、方法としては担保権実行禁止の裁判や配当異議訴訟を提起することが考えられます。他にも不当利得返還請求訴訟も考えられますが配当異議訴訟のように常に認められると言うわけではありません。順を追って説明します。
1、不動産の競売手続きにより、落札されると、売却許可決定、代金納付の手続と進みます。代金額が全ての債権者の請求する金額より多い場合は弁済金交付手続により債権者に支払われ、代金額が全ての債権者の請求する金額より少ない場合は配当が必要となり配当手続となります。
2、弁済金交付手続の場合、債権者の請求金額に異議がある場合は担保権実行禁止の裁判(民事執行法91条1項4号)を得て、その正本を執行裁判所に提出することにより代金交付は停止できます。この裁判を得るためには債務者は担保権不存在確認訴訟を提起する必要があります。訴訟を提起した証明書(これは裁判所でもらえます)を担保権実行金禁止の裁判を申し立てる書類に添付する必要があります。結局その訴訟において、債権者の請求が正当か否か判断されることになります。
3、配当手続となった場合は、配当異議訴訟により債権を争うことができます。配当手続においては裁判所から債務者に対し配当期日の通知があり、配当表が作成されます。そこで、債権者の請求債権が違うという場合は配当期日に裁判所に出頭して配当表に異議を述べることが必要とされています。書面で異議を述べることもできますが配当期日に裁判所に出頭して書面を提出する必要があります。通常、配当表は配当期日の2,3日前までに裁判所が作成しますが、債務者に裁判所から送られてくることはありませんから、自分で配当期日の前に配当表の写しを手に入れる必要があります。配当表は債務者であれば裁判所に行けば手に入れることができます。
4、更に、配当異議訴訟を提起する期間も限定されています。配当期日から7日以内に訴訟を提起したことを執行裁判所に証明する必要があり、証明をしないと配当異議の申し出は取り下げられたものとして扱われ配当が実施されてしまいます。配当異議の訴訟の管轄は執行裁判所と同じ裁判所ですが、部署が違うので訴訟を提起したことの証明書を書記官に作成してもらいそれを、執行を担当している裁判所の部署に提出することになります。抵当権による競売の手続の場合は、これにより配当手続は、停止されます。なお、競売については他に、判決等の債務名義による手続もありますが、その場合は、債権額については債務名義により明らかになっていることから、配当手続を停止させるには別に執行停止の裁判を得る必要があります。
5、上記の手続をとらなかった場合は、配当が実施されてしまいます。ただ、債権者に権利がないのに配当されたと言う場合は不当利得返還請求訴訟(民法703条)を起こすことが可能です。配当手続が実施されたとしても、債権者の権利が確定したことにはなりませんので、債権がないのに受領した場合は、法律上の原因がないのに利得したこととなり、これにより債務者らが損害を被っていれば不当利得となり訴訟を提起することができます。但し、後順位の抵当権者がいる場合の不当利得が認められる金額については争いがあります。配当手続おいて配当を受けられなかった債権者がいる場合は、そもそも債務者(担保物権の所有者)に渡される金員がないこともありますから、そのような場合債務者の受け取るべき金員がないとして不当利得が成立しないと考えられるからです。この点いついては最高裁判所の判例はなく、学説には争いがありますが、不当利得の成立を否定する考えが強いようです。競売が正しく行われた場合には債務者や所有者に受け取る金額がないの、不当利得として金銭の受け取りを認めるのは公平でないと考えられるからです。
6、以上、競売の手続は、法律上複雑な問題が絡み合っていますので、弁護士などの専門家にご相談されるのが良いでしょう。わかると思います。

参考条文、民事執行法
(不動産担保権の実行の手続の停止)
第百八十三条  不動産担保権の実行の手続は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
一  担保権のないことを証する確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。次号において同じ。)の謄本
二  第百八十一条第一項第一号に掲げる裁判若しくはこれと同一の効力を有するものを取り消し、若しくはその効力がないことを宣言し、又は同項第三号に掲げる登記を抹消すべき旨を命ずる確定判決の謄本
三  担保権の実行をしない旨、その実行の申立てを取り下げる旨又は債権者が担保権によつて担保される債権の弁済を受け、若しくはその債権の弁済の猶予をした旨を記載した裁判上の和解の調書その他の公文書の謄本
四  担保権の登記の抹消に関する登記事項証明書
五  不動産担保権の実行の手続の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の謄本
六  不動産担保権の実行の手続の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の謄本
七  担保権の実行を一時禁止する裁判の謄本

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