新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 借地借家法32条1項 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 すなわち、借地借家法は、賃料を具体的に定めた賃貸借契約が継続していくうちに、相場の変動など情勢にあわせて、賃料額を変更する必要が生じた場合は、当事者の話し合いや、裁判所の仲介で、随時変更していくことを、予定しているといえます。 国土交通省の住宅宅地審議会答申(平成5年1月29日)による「賃貸住宅標準契約書」では次のような定め方になっています。 2、自動改定特約の有効性 3、裁判例 4、まとめ
No.477、2006/9/21 13:38 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm
[民事]
質問:建物を賃貸に出したいのですが、賃料の増減について、トラブルになるのを避けたいと思います。あらかじめ、賃貸借契約書に、賃料を自動改定するような条項を入れることは可能でしょうか。そのような特約が無効となってしまう場合があるでしょうか。
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回答:
1、賃貸借契約の原則
賃貸借契約は、民法601条に、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定められています。細かい条件は、当事者の話し合いで自由に決めるのが原則です。これを契約自由の原則といいます。法治国家の基本である私的自治の原則の一内容となっています。この原則から言えば、当事者間が合意する限りいかなる内容の契約も締結できそうですが、他方法の理想から公序良俗や著しく正義に反する内容はたとえ当時者が納得して契約しても法的保護を与えませんので(民法1条、90条)個々具体的に検討する必要性もある訳です。賃貸借契約については、民法601条から621条までの他、借地借家法にも規定がありますが、「賃料の自動改定」について、直接規定した条文はありません。賃料改定については、借地借家法32条が主に規定しています。
2項 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
第4条(賃料) 乙は、頭書(3)の記載に従い、賃料を甲に支払わなければならない。
2 1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30日として日割計算した額とする。
3 甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
借地借家法37条は、「第31条、第34条及び第35条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。」と定め、賃借人を保護していますが、上記の第32条については、適用されませんので、賃借人に不利な可能性のある特約でも直ちに無効となるわけではありません。しかしながら、賃借人に一方的に不利な条件で合理性の無い自動改定特約が定められたり、自動改定特約を適用された結果として相場から大きく乖離を生じた場合は、特約が無効となる場合があり得ます。
平成11年10月6日東京高等裁判所判決は、昭和60年4月に裁判上の和解により締結された期間20年の建物賃貸借契約において、「3年毎に15パーセント増額する」旨の特約について平成9年時点(4回目の改定)で拘束力を認めても賃借人に酷とは言えない、としています。本件は、約3億円の保証金が11年目から毎年10分の1ずつ残額に年2パーセントの利息を加算して返還する特約があったことや、バブル経済の絶頂期に15パーセントを越える増額も可能であったところ自動改定特約を受け入れる条件で当時としては低めの上昇率に合意した経緯など、特殊事情があって、総合的な判断がされたものと思われます。
平成6年11月28日東京地裁判決は、土地の賃料を固定資産税額の3倍とする賃料自動改定特約の定め方自体不合理であるとはいえず有効と判断しました。「右の固定資産税額の上昇に伴って本件賃料自動改定特約に基づいて算定される額が上昇したことは、当事者の予測をこえた異常事態が生じたものとまではいえない。そうすると、本来賃料自動改定特約をした後にその基礎となる事情が変わり、その結果当事者間の衡平を欠くに至ったとはいいがたいから、本件賃料自動改定特約が事情変更により無効に帰したとはいまだいえないものと言うべきである。」と理由中で判断しています。また、同判例は、土地賃借人が、建物を建ててテナントに貸すことにより十分な賃料収入を得ていることも認定し、当事者の衡平を欠いていないことの判断材料の一つにしています。
上記の通り、賃料自動改定条項については、法律の具体的な規定や、最高裁判所の明確な判断基準などもありませんので、当事者の自由に任されている部分が大きいといえますが、賃貸人と賃借人の間に意見の相違が生じ、裁判になるなどの紛争になれば当事者にとって訴訟費用など、おもわぬ費用負担を強いられる恐れがあります。それでは、トラブル回避のために賃料自動改定特約を導入した意味が無くなってしまいます。従って具体的な条項の定め方については、弁護士や不動産鑑定士などの専門家に意見を求めるなどして、後日の紛争を回避できるように工夫して定めた方がよいでしょう。