刑事・親族相盗例
刑事|親族間トラブル|窃盗罪|住居侵入罪|親族による窃盗
目次
質問:
自宅に空き巣が入り、現金が盗まれました。警察に被害届を出してから解ったのですが、犯人はなんと私の息子とその彼女でした。息子たちはこれからどうなるのでしょうか。
回答:
二人とも住居侵入罪、窃盗罪に当たりますが、息子さんは、一般的には不起訴処分となるでしょう。彼女については、処罰が予想されますが、犯行態様、被害の程度、前科前歴等により、不起訴処分になる可能性もあります。
親族間窃盗に関する関連事例集参照。
解説:
1.はじめに
息子さんとその彼女は、共謀して父親の家に空き巣に入り、他人の現金を盗んでいますので、住居侵入罪(刑法130条)と窃盗罪(刑法235条)の共同正犯(刑法60条)となります。法律上は、刑法が守ろうとしている住居の平穏、財物(金員)も親子間では他人と同様な取り扱いになるからです。息子さんがそもそもお父さんと同居している場合には自分の家に侵入したと同じことになり住居の平穏を侵したと評価できませんので息子さんに住居侵入罪は成立しません。本件については、便宜上息子さんと彼女を分けて考えてみましょう。というのは、被害者の関係で息子さんと彼女は身分的地位に違いがあり刑法上特別な取り扱いになっているからです。それにご質問では彼女としか述べられていませんが、息子さんとの関係がどれほど親密か不明ですので場合分けをして見ましょう。
2.息子さんの刑事処分
窃盗罪についてですが、息子さんとあなたは親子、すなわち直系血族ですから同居しているかどうかにかかわらず、起訴されても刑の免除となります(刑法第244条第1項)。すなわち有罪判決を受けても刑を免除されることになるということです。捜査機関は刑の免除が明らかなのに起訴まで持ち込まないと思われますから実際上は起訴猶予処分になるでしょう。以上の規定は親族相盗例といわれています。親族相盗例が規定された理由は、「法は家庭の中に入らず」という考え方にもと基づいています。
すなわち、窃盗は本来親子間でも許されるわけではありませんが、刑法の目的は本来犯罪者を処罰して罪を償わせ、そして更正させ社会秩序を維持することにありますから、犯行態様が平穏である窃盗(その他詐欺、横領、背任などの財産犯も同様です)のような家庭内の金銭問題は先ず家庭内の話し合いに任せた方が刑法の目的に合致すると考えたわけです。この規定が制定されたのは明治時代であり当時は、家長制度が存在しており、家庭内の問題は家長の強い懲戒権により家庭内で解決したほうが刑法の目的に適するとの政策的配慮も働いたようです。但し、親族間が同居していないようであれば、金銭面での家庭内の結びつきはそれほど強くありませんし、家庭内の話し合いによる社会秩序の維持があまり期待できませんからどうしても協議が出来ない場合は告訴により刑事罰を科すことが出来るようにしたのです。住居侵入罪については同居していなければ理論的には犯罪は成立しますがあなたが被害届け、告訴を取り下げれば窃盗罪の手段として行われている関係上起訴されることはないと思います。
最後にもう一度まとめて結論を申し上げると、息子さなんと同居しているようであれば不起訴処分となるでしょう。同居していない息子さんについてはあなたが住居侵入罪について被害届け、告訴を取り下げるなど処罰を望まなければやはり不起訴処分となります。もし、被害届けだけでなく被疑者不明で告訴していた場合は、息子さんが犯人と判明した時点で取り下げることも可能です。
3.彼女の刑事処分
次に、彼女は親族ではありませんから、窃盗につきこの特例は適用されません(刑法第244条第3項)。息子さんが同居している場合には、住居の侵入につき息子さんの承諾があったと考えて住居の平穏を侵害していないようにも思いますが、同居している父親、その他の親族の承諾がありませんので、空き巣目的で侵入している以上、住居侵入罪(刑法第130条)は理論的に成立します。起訴されるかどうかですが、犯行態様、被害金額、父親の被害感情、前科等によもよりますが、息子さんを介し被害額の返還、謝罪が行われあなたが捜査機関に提出していた告訴を取り消せば不起訴処分となるでしょう。息子さんの彼女ですから二人を更正させるためにも息子と同様な取り扱いが望まれます。
4.彼女が内縁関係にあった場合
ご質問では彼女としか記載されていませんが、息子さんが彼女と婚約していた場合や、内縁関係にあったとしても、法律上親族ではありませんから、理論的に言えば結論は同様です。しかし、婚約し同棲している場合、内縁関係の場合には「法は家庭に入らず」という親族相盗例の制度趣旨が事実上当てはまりますのでこの規定の拡張、類推適用が考慮され、捜査機関もあなたが処罰を積極的に望まない以上事実上捜査は進まないでしょうし仮に送検されても起訴猶予になる可能性は大きいと思います。本来、刑事事件の類推適用、拡張解釈は禁じられますが、その趣旨は刑法の基本原則である罪刑法定主義、刑法の謙抑主義(憲法31条)から被疑者に不当に不利益をもたらしてはいけないというものであり、被疑者に特に不利益にならない限り以上のような取り扱いを是認しても問題はないと思われます。尚、婚姻している場合には、被害者であるあなたとの間にも直系姻族という親族関係が成立します(民法第725条)から、その場合彼女があなたと同居していない場合には親告罪の扱いを受けることになりますし、息子さん夫婦があなたと同居していれば息子さんと同じような取り扱いになります。すなわち、お嫁さんが起訴され処罰されることはありません。
手続に不安がある場合は、お近くの法律事務所にてご相談下さい。
以上