新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.491、2006/10/5 15:24

[民事・裁判・控訴審・控訴理由書]
質問:私の兄は貸金返還請求訴訟を提起され、第一審では全部敗訴という結果に終わってしまいました。しかし、内容に不服があったため、控訴しました。ただ、控訴状に控訴の理由を詳しく記載しなかったため、書記官さんから「50日以内に、控訴裁判所宛に控訴理由書を提出するように。」と言われたそうです。ところが、控訴の申立てをした直後に交通事故に遭って大怪我をおい、2ヶ月間は満足に動くことも出来ない状態になってしまいました。このような状況では、50日以内に控訴理由書を提出することはできないと思うのですが、期間内に控訴理由書を提出できない場合、控訴は却下されてしまうのでしょうか。期限を延長してもらうことはできないのでしょうか。

回答:
期限を延長してもらうことは出来ません。ただ、期間内に控訴理由書を提出することができなかったからといって、そのこと自体を理由として控訴が却下されるわけではありません。とはいえ、期間内に控訴理由書を提出することが出来ない理由だけでも裁判所に伝えておくべきです。
解説:
1、第一審判決に対する不服の理由(控訴理由)は、控訴状の記載事項とはされていません(民事訴訟法286条2項)が、民事訴訟規則において、控訴状に第一審判決の取り消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、控訴人は控訴の提起後50日以内に、これらを記載した書面を控訴裁判所に提出しなければならないと規定されています(民事訴訟規則182条)。そもそも控訴とは、第一審判決に対する不服申し立てであり、控訴審の審理及び裁判は当事者が不服を申し立てた限度で行われる(民事訴訟法296条1項、304条)ものですので、控訴をするからには、第一審判決の取消し又は変更を求める何らかの不服理由があるはずです。控訴理由書は、この「不服理由」を記載し、あらかじめ提出しておくことによって、控訴審において早期に争点を明らかにし、充実した審理を実現するために要求されるもので、準備書面としての性格も有しています。提出期間を控訴提起後50日以内としたのは、当事者の準備に要する期間や第一審裁判所から控訴裁判所への訴訟記録の送付に要する期間等を考慮したものであるとされています。もっとも、後述の上告理由書の場合と異なり、50日以内に提出がないとしても、そのこと自体を理由として控訴を却下するとの規定は存在していません。したがって、本件でも、お兄さんが50日以内に控訴理由書を提出できないとしても、それだけでは控訴が却下されることはないといえます。このように、50日以内に提出できない場合でも必ずしも控訴が却下されることはないという取り扱いがなされている関係上、50日という期間を延長できるかどうかという議論はそれほど意味のある議論ではないといえます。もっとも、50日という期間がひとつの節目であること自体は間違いなく、裁判所に何の説明もせずに50日間の提出期間を徒過してしまった場合には、その後に理由書を提出しても受領してもらえない可能性は十分にありますので、不測の事故等により、期間内に提出することが困難であるときには、必ず裁判所に連絡するようにすべきであるといえます。
2、補足
上記の説明は控訴の場合のものですが、上告審の訴訟手続きにおいても、上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に上告理由書を提出しなければならない(民事訴訟規則194条)という、控訴審と類似の規定が存在します。しかしながら、上告審においては上記期間内に上告理由書が提出されなければ上告を決定で却下しなければならないという規定が存在する(民事訴訟法316条1項2号)ため、控訴審と異なり、上告理由書を提出せずに50日の期間が経過してしまった場合には、それだけで上告が却下されてしまうので、その点十分な注意が必要です。
3、ご質問に対する回答、解説は以上のとおりですが、手続きについては分かりづらい部分もありますので、無理に自分で判断しようとせず、書記官の方に問い合わせるか、法律家に相談するようにするのが無難かと思います。

≪参考条文≫

民事訴訟法
第二百八十六条  2  控訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  第一審判決の表示及びその判決に対して控訴をする旨
第二百九十六条  口頭弁論は、当事者が第一審判決の変更を求める限度においてのみ、これをする。
第三百四条  第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。
第三百十六条  次の各号に該当することが明らかであるときは、原裁判所は、決定で、上告を却下しなければならない。
一  上告が不適法でその不備を補正することができないとき。
二  前条第一項の規定に違反して上告理由書を提出せず、又は上告の理由の記載が同条第二項の規定に違反しているとき。

民事訴訟規則
第百八十二条 控訴状に第一審判決の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、控訴人は、控訴の提起後五十日以内に、これらを記載した書面を控訴裁判所に提出しなければならない。
第百九十四条 上告理由書の提出の期間は、上告人が第百八十九条(上告提起通知書の送達等)第一項の規定による上告提起通知書の送達を受けた日から五十日とする。

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