新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.493、2006/10/6 10:43 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

[民事・不法行為・交通事故・加害者が保険に入っていない場合]
質問: 息子(28歳,会社員,独身)が友人の車に同乗していたところ,その友人が運転を誤って単独事故を起こしましたが,息子の友人は任意保険に入っていませんでした。息子は後遺障害等級4級に認定され,働くことができなくなってしまいました。自賠責から1800万円が支払われましたが,息子の友人にさらに損害賠償請求できないでしょうか。また,息子の友人に請求するほかに何か方法はありませんか。

回答:
1、まず,息子さんの友人に対する請求については,交通事故によって発生した損害が自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)から支払われた保険金額を上回ることを主張立証できれば,その上回る部分についてさらに損害賠償請求できます。後遺障害自体による損害として主要なものは,後遺障害を負わされたことに対する慰謝料と逸失利益(その後遺障害がなければ仕事に就いて働くことで収入が得られたはずだったのに,将来にわたって満足に働くことができなくなってしまったことによって,得られなくなってしまった利益)があります。
2、本件の場合,後遺障害等級4級とのことですから,これに対する慰謝料だけで1670万円程度に及びます。また,逸失利益の額は,488万1100円(基礎収入・賃金センサス平成15年男子労働者学歴計全年齢平均賃金)×0.92(労働能力喪失率・後遺障害等級4級の場合は92%)×17.0170(中間利息控除・労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)≒7641万6744円程度になります。これらを合計すると9311万6744円ですから,自賠責から支払われた金額を裕に上回ることが明白です。裁判では,この差額を請求することができます。さらに,損害賠償として請求する金額の1割相当額を弁護士費用として請求することができます。
3、ただ,このような莫大な賠償金の請求が認められたとしても,加害者が自動車保険(任意保険)に加入していない場合,加害者自身に支払能力がなければ現実に賠償金を得ることができません。まさに「ない袖は振れない」ということになってしまうのです。ところが,もし,御子息自身または御両親のいずれかが自動車保険(任意保険)に加入していれば,そちらの保険会社に対して,保険金を請求することができる場合があります。この保険を無保険車傷害保険といい,対人賠償保険に自動で附帯されています。つまり,わざわざ何かの特約をつけなくても,自動車総合保険に加入していればそれに含まれているのが通常です。
4、無保険車傷害保険とは,任意保険に加入している記名被保険者等(契約車両に乗車中か否かは問わない。)や契約車両に乗車中の者が,他の自動車との事故で死亡し,または後遺障害を被り(単なる傷害のみで後遺障害が残らなかった場合は含まない。),それによって生じた損害について法律上の損害賠償を請求できる場合でありながら,加害自動車に対人賠償保険等がついていないなどの理由により,十分な損害賠償が受けられないときに保険金が支払われるというものです。
5、本件において,御子息自身が保険会社と契約していれば記名被保険者として保険金の請求ができるでしょう。また,御子息自身が契約をしていなくても,御両親のいずれかが契約をしていれば,「記名被保険者又はその配偶者の同居の親族」か「記名被保険者又はその配偶者の別居の未婚の子」として保険金の請求ができるでしょう。
6、もっとも,保険会社も営利企業であることには変わりません。したがって,「真摯な対応が売り」の保険会社だとしても,「できることなら多額の保険金を支払いたくない。」というのが本音です。法律上請求できる金額(裁判所が認めてくれる金額)よりもはるかに低い金額を提示してサインを求めてくる可能性は十分に考えられます。御本人や御家族だけでの交渉は困難ですから,直ちに弁護士にご相談,ご依頼なさることをお勧めします。最終的には,加害者に対して訴訟を起こし,その判決で確定した損害額に基づいて保険会社に対して保険金の支払いを求めることもできます。

≪参考条文≫

民法
第七百九条(不法行為による損害賠償)故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十条(財産以外の損害の賠償)他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。

自動車損害賠償保障法
第三条(自動車損害賠償責任)自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは,これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし,自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと,被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは,この限りでない。

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