新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース ≪参考条文≫ (遺留分の帰属及びその割合)
No.495、2006/10/12 13:16 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm
[民事・相続・遺贈・遺産分割の指定・遺留分請求・その方法・手続き]
質問:私の母は3ヶ月前に亡くなりましたが、その後、公正証書遺言が見つかり、そこには、「○○所在の不動産をA子に相続させる。」と書かれていました。母の相続人は、A子、B子、C男の3人で、私はC男ですが、母の財産は不動産しかありません。どうすればよいのでしょう。
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回答:
1.特定の財産を特定の相続人に相続させたい場合に、従前は「遺贈する」という文言がよく使われていましたが、昭和40年代後半頃から、公証実務において「相続させる」という文言が使われ始め、徐々に定着してきたことから、最近では、「相続させる」の方が一般的になっています。遺産が不動産の場合、所有権移転登記手続につき、「相続させる」という文言では受益者の単独申請ででき(「遺贈」の場合は、共同相続人との共同申請ですので印鑑証明書の添付等必要となり煩雑です)、登録免許税も「遺贈」の場合よりも低額などのメリットがあります。「相続させる」遺言の趣旨、効力については、見解の対立がありましたが、平成3年4月19日の最高裁判例により、解釈が示されました。「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割方法の指定がされたものと解すべきである。」「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」というものです。これに従えば、不動産は相続の開始時よりA子の単独所有となります。
2.ところが、ご質問の場合、被相続人の遺産が不動産のみということで、A子が当該不動産を得てしまうと他の相続人は得る物がなくなってしまいますので、本件遺言はB子、C男の遺留分を侵害しているといえます。そこで、B子、C男は、遺留分減殺請求をすべきとなりますが、民法1031条は、「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる」として、「遺贈」についての減殺請求を認めており、「相続させる」文言については、「遺贈」ではなく遺産分割方法の指定であり相続による承継なので、遺留分の減殺請求はできないのではないかとの疑問が形式的には生じます。しかし、遺言書において、法定相続分を超えた遺産分割の方法が指定された場合、同時に相続分の指定がなされたものとも解されますので、相続分の指定は遺留分に関する規定に反することはできないとする民法902条に反していますから、やはり、この場合でも遺留分の制限に服するものと解するのが自然です。また、遺留分制度の規定は相続人の保護をその趣旨とするところ、「遺贈する」との遺言ではなく「相続させる」との遺言をすれば遺留分規定に反するような相続財産の処分も可能となってしまい、相続人を保護するために認められた遺留分制度の趣旨を潜脱させることになってしまいます(神戸地裁平成14年3月6日判決も同旨)。従って、B子、C男としては、民法1028条2号の割合で(B子、C子それぞれ相続財産の2分の1×3分の1ですので、財産の6分の1ということになります)、遺留分減殺請求をしてください。まずは、配達証明付き内容証明郵便にてA子に通知し、A子が応じない場合には、調停、審判等の手続きを経ることになります。遺留分減殺請求は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与等があったことを知った日から1年(民法1042条)内に行う必要があります。その意思表示がなされれば、法律上当然に減殺の効力を生じます(形成権と法的に言われています)。戸籍謄本や遺言書の写しを用意して、弁護士に相談なさると良いでしょう。
民法第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(遺贈又は贈与の減殺請求)
民法第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。