新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.497、2006/10/12 13:25 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・夫婦]
質問:1年後に退職を控えた夫と離婚を協議しています。夫は,長年,一部上場企業に勤務してきましたので,相当な金額の退職金を受給することになると思いますが,将来受け取る予定の退職金は,財産分与の対象になるのでしょうか。

回答:
1、財産分与
一般に,財産分与には,@夫婦財産の清算,A離婚後の扶養,B離婚慰謝料の3つの要素がありますが,通常は,@夫婦財産の清算,すなわち,夫婦が婚姻中に夫婦双方の協力で形成した財産の清算という意味で用いられることが一般です。ご質問のケースにおいても,通常は,@における財産分与が問題となると思われますので,以後は,これを前提にご説明します。
2、退職金の性質
退職金の法的性質は,必ずしも一義的ではありませんが,少なくとも,一般的なサラリーマンの退職金については,賃金の後払いの性質を有していると考えられています。そうであれば,退職金も,通常は,給料と同様に,婚姻中の妻の家事労働などいわゆる「内助の功」による貢献が認められますので,夫婦が婚姻中に夫婦双方の協力で形成した財産といえるでしょう。したがって,退職金は,財産分与の対象になると考えるべきですが,一方で,将来の退職金は,退職までの期間が長い場合などには,支給されるか否かが必ずしも確実ではなく,また,支給される金額も将来の不確定な要因に左右されうるものですので,財産分与の対象となる退職金は,退職までの期間があまり長期ではなく,受給の蓋然性が高いものに限られます。なお,判例では,夫が退職まで5年弱の期間を残しているケースで,退職金を財産分与の算定の基礎とすることはできないとしたものもあります。
3、算定方法
退職金が財産分与の対象になると考えられる場合であっても,妻の「内助の功」が認められるのは,在職期間の内,婚姻期間に対応する部分だけですので,退職金についての分与額は,退職金×(婚姻期間/在職期間)×寄与度となります。
4、 退職金算定の基準時,分与時期
退職金の金額を算定するにあたっての基準時や実際に分与する時期については,実務上,以下のような方法が取られています。
@ 離婚時点で退職すると仮定した場合に受給すると見込まれる退職金の額を基準として分与額を計算するが,実際の分与は将来の支給時とする方法
A将来,実際に受給する退職金の金額を基準とするものとして,将来の支給時に分与する方法
B将来の支給予定の退職金を算定し,金額を明示した上で,将来の支給時に分与する方法
C将来の退職時の退職金額を離婚時の金額に引き直した上で(中間利息を控除する),離婚時に分与する方法
5、ご質問のケースでは,ご主人は,長年一部上場企業に勤務しており,退職まで1年を残すのみとのことですので,退職金受給の蓋然性は高いということができ,財産分与の対象となると考えてよいと思われます。したがって,あなたは,退職金の内,上記のような算定方法によって得られる金額について,財産分与を主張することができます。一度、弁護士に御相談になると良いでしょう。

≪参考条文≫

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める

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