新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.504、2006/10/30 17:52 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・夫婦]
質問:夫が浮気をして、現在離婚の話合いをしています。夫は、養育費や、慰謝料について、口では支払うといっていますが、いい加減な人なので、不安です。どのようにしたら、支払を確実にさせることができるのでしょうか。

回答:
1、まず、一番確実なのは、全額一括で払わせることです。養育費についても将来的なものまで、一括で支払うという合意をすること自体否定されるものではありません。(ただし、事後的な事情の変更の可能性を考えるとあまりおすすめはできませんが。)ただ、将来の養育費を一括で、ということになると、相当な高額になることが予想され、慰謝料も含めて一括で、というのはあまり現実的な話ではないでしょう。次に、担保あるいは保証人をとるということが考えられます。夫名義の持ち家があるなどの場合には、その土地に抵当権をつけておけば、分割で定めた債務を支払わなかった場合には、強制執行をして土地を競売にかけることによって回収することができます。また、夫の親族などが、保証してくれるということであれば、夫が支払わなかったときに、保証人に対して請求することができます。(もっとも回収できるかは、保証人の資力に左右されるということにはなります。)ただ、抵当権を設定するにしても、保証人をつけるにしても、夫、あるいは保証人となる人が任意にそのような約束をしてくれれば、ということにはなります。今回のように、夫が有責配偶者であって、離婚したくてもできないような状況のときは、あなたが、そのような担保の提供があれば離婚届に署名する、という態度でいた場合に、夫が応じる可能性があるということはありますが、あくまで、相手次第ということはいわざるを得ません。
2、このようなことができない場合には、以下のようなことを考えてください。確実に回収できる、ということはいえませんが、何もしないと、回収は相当難しくなります。
@ 少なくとも、まず、約束の内容を書面化することです。できれば、専門家に内容を見てもらったほうが良いですが、難しければ、約束の内容を記載して、お互いにサインするというところまでやって下さい。あなたのような典型的な離婚のケースであれば、記載例のようなものも本屋で見つけられると思います。支払が無くなったときに、最終的には裁判を起こして判決をとり、強制執行をかけるということにはなりますが、裁判では、あなたの側で、養育費や、慰謝料をいくら払うという約束をした、ということを主張・立証する必要があるので、このような書面はその証拠として必要になります。書面はどう書かなければ無効ということはありません。はんこを押さなくても証拠にはなりますが、一般的には、はんこがあれば、相手が自分の意思でその契約書を作ったということがより強く推認される(証拠としての価値は高い)ということになるでしょう。
A次に、できれば、それを公正証書化することを考えてください。公正証書というのは公証役場に当事者2人が赴き、公証人の前で作る書面のことを言います。このような書面は、上記のような単なる書面より、裁判所が見たときに、証拠としての価値が高いものとして扱うでしょうし(少なくとも、偽造などの疑いはないでしょう。)、また、相手に対しても、守らないといけないという心理的強制力が働くといえます。また、公正証書の中に、「支払を怠った場合には、強制執行をされても異議がない。」といういわゆる強制執行認諾文言を入れておくと、金銭債権については、上記のように裁判をおこして判決をとるということをしないで、いきなり、強制執行をすることができるという大きな利点があります(民事執行法22条5号)。公正証書の作成費用については、請求額に応じるので、お近くの公証役場にご相談下さい。
3、最後に、実際に相手が支払わなかった場合の手続きの流れを、簡単にご説明します。
@上記の強制執行認諾文言の入った公正証書をお持ちの場合を例にすると、まず、公正証書を作った公証役場(法26条)に問い合わせをし、執行文(法25条)と送達証明(法29条)というものをもらう手続きをします。そして、申立書を作成し、公正証書の原本と執行文、送達証明を添えて、裁判所に提出することになります。申立書には、あなたがいくら請求するのか、相手方の財産として、何を差し押さえるのかなどを記載することになり、差し押さえるものとしては、相手方の土地・建物などの不動産、預貯金債権、給料債権、退職金債権などが通常考えられます。動産も差し押さえることは可能ですが、執行が難しく、また、動産は換価してもさほど高額にならないことが多いので、実務上は、まず、上記のようなものを考えることが多いです。
A裁判所が、差押命令を出すと、相手方あるいは第三債務者(預金の差押でいえば銀行)は差し押さえられた財産を処分できなくなり、その後、不動産の差押の場合は競売手続きが行なわれ、その売却代金の中から支払われるということになります。また、その他の債権の差押のケースでは、例えば、預金の場合を例にとると、何事もなく行くと、差押命令が銀行に送達されてから1週間を経過した時点で、あなたに取立権限が発生し(法155条)、直接、銀行に対し支払いを求めることができるようになり、銀行が任意に支払えば、それであなたの債権は満足することになります。
B公正証書ではなく、ただの契約書ないし、支払合意書を持っている、というだけの場合は、上記の通り、いきなり強制執行をすることはできず、まず、そのような書面を証拠として裁判をおこし、判決(あるいは、訴訟の途中で和解して、和解調書ができる場合もあるでしょう。)をもらいます。判決(あるいは、和解調書)をもらってもその内容の通り支払わないような場合に、初めて強制執行が可能で、ここで初めて、裁判所に(法26条)執行文や送達証明などのものをもらい、強制執行の申し立てをすることになり、申し立て後の流れは基本的に上記と同様ということになります。
以上、一通り包括的に説明してきましたが、事例によって必要書類も異なりますし、相手方や、その他の債権者から異議が出るようなケースもありえます。執行の手続きについては、裁判所や法的専門家にご相談下さい。

 ≪参考条文≫
 
(債務名義) 第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
(強制執行の実施) 第二十五条  強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。
(執行文の付与)第二十六条  執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
2  執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。
(債務名義等の送達) 第二十九条  強制執行は、債務名義又は確定により債務名義となるべき裁判の正本又は謄本が、あらかじめ、又は同時に、債務者に送達されたときに限り、開始することができる。第二十七条の規定により執行文が付与された場合においては、執行文及び同条の規定により債権者が提出した文書の謄本も、あらかじめ、又は同時に、送達されなければならない。

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