新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.515、2006/11/7 17:11 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

[債務整理・破産]
質問:破産するには保険を解約しなければならないと聞きましたが、持病があるので一度解約するともう保険には入れなくなります。何か良い方法はありませんか?また、子供の学資保険も解約しなければなりませんか?

結論:医療保険、学資保険ともに解約せずに免責を受けられる可能性があります。
回答:
1、破産は、破産手続開始時点での債務者の資産を債権者に平等に分配する手続です。債務者の財産のうち通常の生活に必要と認められる生活必需品や少額の現金を除き、預貯金・有価証券・自動車・不動産等は破産財団に組み込まれます。保険についても、返戻金が発生するタイプのものは、原則破産財団に組み入れることになります(解約しても返戻金が発生しないタイプのものは、資産価値がないわけですから、問題になりません)。解約返戻金の有無及び金額は、保険会社に問い合わせると教えてもらえますので、予め確認しておくと良いでしょう。
2、このように保険解約返戻金がある場合、原則として解約した返戻金を債権者への返済に充てる必要があります。ところで、破産財産を構成しない財産のことを自由財産といいますが、これには、民事執行法第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭と、差し押さえることができない動産が該当します(破産法第34条第3項)。民事執行法施行令第1条は、民事執行法第131条第3号の政令で定める額を66万円としているので、現金ならば、これに二分の三を乗じた額、すなわち99万円までは自由財産になるわけです。しかし、保険の解約返戻金は債権ですから、たとえ解約返戻金額が99万円でも本来的には自由財産には該当しません。但し、破産法第34条第4項の規定により、裁判所は、財産の範囲を拡張することができます。破産法第34条第5項の規定により、裁判所はこの決定をするに当たり、破産管財人の意見を聴かなければならないとされていることから、いわゆる同時廃止の場合には適用されませんので、要注意です(この制度によって自由財産として認められるものは、預貯金、保険解約返戻金、冠婚葬祭互助会積立金、社内積立金、自動車、退職金請求権となっており、不動産や宝飾品、有価証券などは金額にかかわらず認められません)。
3、自由財産の範囲の拡張が認められない場合は、原則として解約する必要があります。しかし、本例のように現在病気を抱えている人や高齢者の場合には、一度保険を解約してしまうと、再度加入できない可能性があります。このようなケースでは、返戻金相当額を現金で用意すれば、保険の継続が認められることがあります。但し、このお金を用意するために破産宣告前に借り入れをすると、「破産するつもりだったにも関わらず借り入れをした」ということになり、免責が認められなくなる(破産法第二百五十二条)ばかりか、詐欺破産罪(破産法第二百六十五条)が成立する可能性もありますので、破産手続き開始後の給与等から捻出、積み立てて用意しなければなりません。破産宣告後の破産者が働いた財産は破産債権者の引き当てとなる破産財団には入りませんから以上のように取り扱っても結果的に破産債権者を害することにはならないわけです。
4、また、学資保険の契約者が、破産者である以上は通常の保険と同様の扱いを受けます。
5、いずれにしても、最終的には裁判所や破産管財人の判断によりますが、申立前に弁護士や司法書士に事情を話して、よく相談しておくことが大切です。

[参照条文]

破産法 
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは、破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは、債務者であって、第三十条第一項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
6 この法律において「破産債権者」とは、破産債権を有する債権者をいう。
7 この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
8 この法律において「財団債権者」とは、財団債権を有する債権者をいう。
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
13 この法律において「保全管理人」とは、第九十一条第一項の規定により債務者の財産に関し管理を命じられた者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。
3 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
一 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭
二 差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号に規定する金銭を除く。)。ただし、同法第百三十二条第一項(同法第百九十二条において準用する場合を含む。)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押えることができるようになったものは、この限りでない。
4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
5 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない。
6 第四項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。
7 第四項の決定又は前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を破産者及び破産管財人に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
3 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
4 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
5 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。
7 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
第二百六十五条 破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては、相続財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては、相続財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
2 前項に規定するもののほか、債務者について破産手続開始の決定がされ、又は保全管理命令が発せられたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、その債務者の財産を取得し、又は第三者に取得させた者も、同項と同様とする。

民事執行法
第百三十一条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

民事執行法施行令
第一条 民事執行法(以下「法」という。)第百三十一条第三号(法第百九十二条において準用する場合を含む。)の政令で定める額は、六十六万円とする。

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